日本の成人の約7割が、歯周病を患っているとされる。放置すると心臓病や認知症など重大な疾患につながることが、近年わかってきた。ただ、歯周病は自覚症状がないまま進行していくことが多い厄介な病気だ。ただ、ひと口に歯周病と言っても、「歯肉炎」と「歯周炎」では必要となる治療が異なるという。
基本となるのはSRP
歯の土台となる歯槽骨に影響がない「歯肉炎」の場合、「ブラッシング」が重要だ。日本歯周病学会専門医・指導医で元東北大学歯学部大学院臨床教授の弘岡秀明氏(スウェーデン・デンタルセンター院長)が指摘する。
「歯肉炎では、患者自身のブラッシングで歯肉より上の歯面からプラークを取り除くことで炎症を治めることができます。歯科医院では、医師や歯科衛生士が様々な器具を使って普段の歯みがきでは除去しにくい部位、特に歯と歯の間などを中心に歯石やプラークを取り除きます」
プラークや歯石を除去できれば、1週間ほどで歯肉炎は治まる。あとは、衛生士によるブラッシング指導を受け、適切なメンテナンスを継続することが重要だ。
「歯周炎」に進行した場合、問題は深刻となる。
「歯周炎になると歯肉が赤く腫れ、血や膿が出たり、口臭が生じるなどの症状が出ます。放っておくと、歯はぐらつき、歯槽骨が喪失して歯を支えることができなくなり、適切な治療を受けないと歯が抜けてしまいます」(弘岡氏)
表面的な「プラークコントロール」だけでは症状の改善が困難で、病気の進行は止められない。
「歯周炎の治療では、歯周ポケット内(歯肉縁下)に器具を入れて歯の表面にSRPと呼ばれる治療を行ない、プラークや歯石を除去します」(弘岡氏)
SRPとは、歯周炎の基本治療となる非外科処置だ。
「細い針のようなスケーラーで歯面から歯石を取る『スケーリング(SC)』と、歯石が付着していた歯根部分を滑らかにする『ルートプレーニング(RP)』という処置を同時に行なう治療です。この時、歯面に付着したプラークも同時に除去します」(弘岡氏)
この治療では検査用のプローブよりも太く刃先のついた器具を用いるため、痛みが伴いやすい。
「必要に応じて局所麻酔をかけたりして行ないます。この非外科処置で歯肉縁下のプラークや歯石を取り除き、数か月後、炎症がなくなり歯周ポケットの深さが改善すれば治療は成功です」(弘岡氏)
歯肉縁下のSRPにより、重度の歯周炎患者の歯周ポケットの深さが改善し、その後も健康な歯周組織が維持されたとの研究報告もある。また、SRPは歯茎などにメスを入れない非外科処置のため、術後に歯肉が大きく下がるなどの見た目のデメリットもない。