ハッチの冒険に涙し、ドロンボー一味との戦いに笑った──。これらのアニメは、今年創立60周年を迎えるタツノコプロが制作した。そこで制作の舞台裏を大解剖。同社の初期メンバーで現在は顧問を務めるアニメ監督の笹川ひろしさん(86才)とアニメ演出家・布川ゆうじさん(75才)に、制作秘話をうかがった。【前後編の後編】
『タイムボカン』がそれまでの路線を変えた
さらに作品の幅を広げたのが、1975年から始まった『タイムボカン』だった。この作品も笹川さんが企画して監督を務めており、タツノコプロの特色となっていたアクションとギャグの要素を融合させた画期的なものだった。
アニメ演出家として、『いなかっぺ大将』『科学忍者隊ガッチャマン』に携わった布川ゆうじさんは、笹川さんを師と仰ぎ、『タイムボカン』の企画・制作にかかわったひとりだ。布川さんは言う。
「私は笹川さんの下にずっとついていたのですが、彼が担当するものはことごとくヒットするんですよ。時代を読む感覚や鋭さがある人だと感じました。当時のテレビ業界では、バラエティーで視聴率をとるのがコメディアンの萩本欽一、アニメで視聴率をとるのが監督の笹川ひろしだといわれていたくらいです」
だが、『タイムボカン』の制作はうまくいかなくなった。
「実を言うと、私も笹川さんもこの作品をどうスタートさせればいいのか迷いに迷っていました。方向性が見えないまま手探り状態で進めていたせいか、そんなにおもしろい作品だと思えなかったんです」(布川さん)
実際、放送開始直後は視聴率も振るわなかった。ところが、9話以降、徐々に人気に火がついたという。
「これは、悪役トリオ、通称“三悪”の影響が大きかったんです。彼らの演技がキャラクターに命を吹き込み、作品の個性を決定づけたんです」(笹川さん)
『タイムボカン』の“三悪”とは、女ボスのマージョ、その手下のグロッキー、ワルサーの3人。演じたのは、『ドラえもん』の野比のび太役などで知られる声優の小原乃梨子さん、『巨人の星』(1968年)の伴宙太役の故・八奈見乗児さん、『ドラえもん』のジャイアン役を務めた故・たてかべ和也さんだった。