今年創立60周年を迎えるタツノコプロ。タツノコアニメに命を吹き込んだ、声優・歌手・スタッフたちの話から当時の制作舞台裏の様子を振り返る──。『タイムボカンシリーズ』でドロンジョら歴代女ボスを演じた声優・小原乃梨子さんに聞いた。
小原さんは『タイムボカンシリーズ』(1975〜1983年)の7作品すべてで、マージョやドロンジョといった、悪の女ボス役を演じている。
「最初に『タイムボカン』のマージョ役のオファーが来たときは、お引き受けするかどうか迷いました。それまでやったことのない“悪役”だったので」
当時の小原さんは、アニメ『アルプスの少女ハイジ』(1974年)のペーター役で人気を博し、素朴な少年の声のイメージが定着していた。悪の女ボスとは対照的なキャラクターだ。
「でも、キャラクターのお顔を見ると、悪を名乗ってはいるけど、悪者には見えない(笑い)。どこか憎めない印象なんです。それで、お引き受けすることにしました」
小原さんの印象通り、悪役ながらユニークで、目的遂行のため健気に行動するその姿から、主人公たちを圧倒するほどの人気を誇るようになった。小原さん演じる女ボスを含め、3人の悪役たちは“三悪”とも呼ばれ、同様のキャラクター、同じ声優のまま、『タイムボカンシリーズ』すべてに出演することになったのだ。
アフレコではアドリブ
シリーズの中では特に、ドロンジョが印象に残っているという小原さん。
「毎回最後は、ヤッターマンにやられてボロボロになるのだけれど、愛嬌があって、演じていて楽しかったです」
アフレコ現場では、アドリブが飛び交っていたという。
「八奈見ちゃん(“三悪”のひとり、ボヤッキー役の故・八奈見乗児さん)と、かべ(“三悪”のひとり、トンズラー役の故・たてかべ和也さん)、この2人がとにかくおもしろくてね。特に八奈見ちゃんはアドリブだらけ。私も、“どうせ今回も、台本通りじゃなく、何かしてくるだろうな”と思って臨んでいました(笑い)」
ボヤッキーの口癖である「全国の女子高校生の皆さん」やボタンを押す際の「ポチッとな」もアドリブから生まれたのだという。そんな小原さんも、アドリブで名せりふを残している。ドロンジョがよく言っていた「スカポンタン」だ。
「“スカタン”とか“アンポンタン”とか、あまり悪い言葉は使いたくなかったの。だから、2つを足して“スカポンタン”にしたら、楽しい感じになるかなと思って(笑い)」
咄嗟に出た言葉だったが、翌週の台本には、「スカポンタン」というせりふが書かれていた。スタッフも現場の勢いやノリを大切にしていたのだ。
「それがうれしくて楽しくて、またいいアドリブを入れようと考える。スタッフはみんな家族みたいで協力して作っている感じがありましたね」
そんな現場の楽しげな雰囲気が、演じる声を通して私たちにもしっかり伝わっていた。
【プロフィール】
声優・小原乃梨子さん/女優・ナレーター。洋画の吹き替えではブリジット・バルドーなどを務め、アニメでは『未来少年コナン』(1978年)のコナン役、『ドラえもん』(1979年〜)の野比のび太役(2005年まで)など、少年から大人の女性まで幅広く演じている。
取材・文/川辺美奈子
※女性セブン2022年9月29日・10月6日号