タツノコプロは今年、創立60周年を迎える。タツノコアニメに命を吹き込んだ、声優・歌手・スタッフたちの話から当時の制作舞台裏の様子を振り返る──。『タイムボカン』のヒロイン・淳子&『ヤッターマン』のアイちゃんを好演した声優・岡本茉利さんに聞いた。
児童劇団に所属し、子役として活躍していた岡本さんが、声優として初のレギュラー役をつかんだのは『いなかっぺ大将』(1970年)のヒロイン・大柿キク子役だった。当時の岡本さんは16才。その後、21才のときに『タイムボカン』のヒロイン・淳子役を、『ヤッターマン』のヒロイン・上成愛(アイちゃん)役を続けて演じた。それぞれどう演じ分けていたのだろうか。
「淳子は泣き虫でおとなしい女の子という設定でした。絵を見ると、顔の表情が細やかに作られていたので、演出のかたと役柄に合う声を細かくすり合わせていきました。アイちゃんは淳子よりはお転婆で、元気いっぱいというイメージで演じました」
しかし、『タイムボカンシリーズ』では、皮肉なことに主役よりも、小原乃梨子さんらが演じた“三悪”の人気が爆発。
「そう(笑い)! 『タイムボカンシリーズ』の陰の主役は“三悪”。もうひしひしと、それは感じていましたね。タイトルは『ヤッターマン』だけど、私たちは主役じゃないよねって、ガンちゃん(故・太田淑子さん)と言っていました(笑い)。ストーリーも実は“三悪”中心で動いていて、そういうおもしろさもまた、『ヤッターマン』の魅力だと思います」
『ゾロメカ』の声は声優全員で斉唱
後輩声優の岡本さんから見て“三悪”の先輩声優陣はどう映っていたのだろうか。
「小原さんは真面目で厳しいお母さまという感じでした。でも、収録が始まるとコミカルなドロンジョ様に早変わり。小さな男の子からセクシーな女性まで、声ひとつで年齢や表情を変えられる。毎回その演技の幅に驚かされていました。
おばあさんになったアイちゃんが出てくる話があったのですが、そのときの私は23才。おばあさん役ができなくて、しょげた記憶があります。小原さんたちのようになるには、もっと勉強しないと、と思いました。刺激的な現場でしたね。一方、八奈見さん(ボヤッキー役の故・八奈見乗児さん)は普段は真面目でおとなしいのに、本番になると何を言い出すかわからないアドリブの達人。たてかべさん(トンズラー役の故・たてかべ和也さん)はいつも冗談を言って笑わせてくださいました」
役の上では敵味方だが、作品を通して小原さん、八奈見さん、たてかべ和也さんからたくさんの学びを得たという。
そして、アフレコ自体は、笑いが絶えない楽しい現場だったとも続ける。
「毎回おもしろくて(笑い)。『ヤッターマン』には必ず、“ゾロメカ”という小型メカが出てくるのですが、その声は、声優の皆で一緒に出していました」
『ヤッターマン』の見せ場の1つといえば、メカ同士の対決だが、“ゾロメカ”は、そのときに登場する小型メカ。動物モチーフのメカが多く、“カメ、カメ……”など、呟きながら行進してくるのがおなじみだ。当時は聞き逃していたが、いまもう一度見て、ゾロメカたちの声にも耳を傾けたくなった。
【プロフィール】
声優・岡本茉利さん/子役から活躍し、映画『男はつらいよ』シリーズなどに出演。声優での代表作は『花の子ルンルン』(1979年)の主人公・ルンルン役、『おはよう!スパンク』(1981年)のヒロイン・森村愛子役など。
取材・文/川辺美奈子
※女性セブン2022年9月29日・10月6日号