フランス人映画監督のジャンリュック・ゴダール氏が9月13日、スイス西部ヴォー州にある自宅で自殺幇助を受け、91歳で亡くなった。世界的映画監督の「安楽死」というニュースは世界各国で報じられ、「尊厳ある死」とは何かに改めて注目を集める契機となった。『安楽死を遂げるまで』で講談社ノンフィクション賞を受賞している在欧ジャーナリストの宮下洋一氏がレポートする。
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ゴダール氏は、映画『勝手にしやがれ』(1960年)や『気狂いピエロ』(1965年)などの作品で世界の映画界に「新たな波」(ヌーベル・バーグ)を巻き起こした。その彼の死は、多くの人々に悼まれたが、「病ではなく、疲労困憊だった」との理由で幇助自殺を遂げたことが驚きだった。
私はこれまで、日本人の難病患者をはじめ、欧米諸国の患者がスイスで自殺幇助により亡くなる瞬間を見届けてきた。同国では、安楽死のひとつである自殺幇助が認められているが、オランダやベルギーなどで主流の積極的安楽死は違法にあたる。私は、広義の意味で両者を安楽死と呼ぶことにしている。
ゴダール氏が選んだ自死は自殺幇助によるものであり、致死薬を溶かしたコップの水を飲み干す方法が一般的だ。もうひとつは、点滴から体内に致死薬を流し込む形が取られるが、いずれも患者自らが劇薬を体内に注入し、死を迎えなくてはならない。
一方の積極的安楽死は、医師が直接、患者に致死薬入りの注射を打ち、死に至らせることから、自殺という概念とは異なる。オランダやベルギーでは、自殺幇助も認められているが、安楽死を希望する患者の大半は、担当医による注射を選ぶことのほうが多い。ただ、他人の力を借りずに逝きたい患者などは、自殺幇助による最期を求める傾向が強いと言われている。
「夫婦同時安楽死」も増加している
フランスとスイスの重国籍者だったゴダール氏は、スイス最大の自殺幇助団体「エグジット」を通じて亡くなったと見られている。この団体で安楽死できるのは、スイス在住者に限られ、外国人の場合は、「ディグニタス」(本部チューリッヒ)や「ライフサークル」(同バーゼル)などの自殺幇助団体に申請する必要がある。