スポーツ

元騎手・蛯名正義氏が明かす「ジョッキーはレース中何を考えているか」

レース前のパドック。「頼んだぞ」と愛馬に念を送る

レース前のパドック。「頼んだぞ」と愛馬に念を送る

 1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏が、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、レース中にジョッキーが考えていることについてお届けする。

 * * *
 いきなりタイトルと相反するようで申し訳ないけれど(笑)、いい勝ち方をする時は何も考えていない、考える前に体が動いています。レース中、他の馬の位置取りなどの情報など視覚から入ってくる情報に、考えることなくスムーズに対応できる時の方がきれいに勝てていました。

 9月の中京では多くのコースレコードが出ました。しばらく使っていなかった開幕週の馬場は時計が速くなります。ただし鞍上のジョッキーは、レース中、「速いな。これはレコードタイムが出るぞ」なんて考えることはありません。なぜいいタイムが出るかというと、それはコースが走りやすくて、そんなに目一杯じゃなくても、馬が楽に気分よく走れているという時。頑張って一生懸命走っているという状況ではなく、なんとなく出てしまったという感じです。

 前のレースの時計が速かったりすると、クラスが上がればもっと出るだろうなというのは思います。それでもレースの時は、どの馬が前へ行くのかとか、どの馬を負かしたら勝てるのかしか考えていません。陸上や水泳と違って、いいタイムを出すことが目的ではないのですから。

 一方、レース中には「動くに動けない」という状況があります。見ているファンからすれば、馬券を買っている馬が後方にいて、なかなか順位を上げていかないとジリジリすることがあるでしょう。「そんな後ろじゃダメだろ」「もっと早めに上がっていかないと!」と怒りたくなるのではないでしょうか。「いったい何を考えているんだ!?」とか(笑)。

 動けるものならとっくに動いているはずです。でも先に動いてしまうと、同じような位置にいた他の馬から目標にされてしまう。「長くいい脚を使える」タイプなら行ききれるかもしれないけれど、早く動いたために止まってしまうこともよくある。一度ギアをあげていったん止めてしまうと、再度ギアチェンジをするのは難しいのです。もちろん「一瞬の脚で勝負する」タイプなら、我慢して我慢して、ここぞでゴーサインを出すようにしなければ勝てません。

 スタートよく出て、後ろの馬が動きにくいペースをつくれるのが、逃げ馬や先行馬の強みですが、同じような馬ばかりが揃って競り合えば共倒れになるから、どっちがいいかというのは難しい。ただ、今の競馬場はある程度前に行けるスピードがないとダメというのが前提になってはいます。それでも急に雨が降ったりするとガラッと変わります。

関連キーワード

関連記事

トピックス

新横綱・大の里(時事通信フォト))
《地元秘話》横綱昇進の“怪物”大の里は唯一無二の愛されキャラ「トイレにひとりで行けないくらい怖がり」「友達も多くてニコニコしてかわいい子だったわ」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ミスタープロ野球として、日本中から愛された長嶋茂雄さんが6月3日、89才で亡くなった
長島三奈さん、自身の誕生日に父・長嶋茂雄さんが死去 どんな思いで偉大すぎる父を長年サポートし続けてきたのか
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
金髪美女インフルエンサー(26)が “性的暴力を助長する”と批判殺到の「ふれあい動物園」企画直前にアカウント停止《1000人以上の男性と関係を持つ企画で話題に》
NEWSポストセブン
逮捕された波多野佑哉容疑者(共同通信)。現場になったラブホテル
《名古屋・美人局殺人》「事件現場の“女子大エリア”は治安が悪い」金髪ロングヘアの容疑者女性(19)が被害男性(32)に密着し…事件30分前に見せていた“親密そうな様子”
NEWSポストセブン
東京・昭島市周辺地域の下水処理を行っている多摩川上流水再生センター
《ウンコは資源》排泄大国ニッポンが抱える“黄金の資源”を活用できてない問題「江戸時代の取引金額は10億円前後」「北朝鮮では売買・窃盗の対象にも」
NEWSポストセブン
マッチングアプリぼったくり。押収されたトランプやメニュー表など。2025年5月15日、東京都渋谷区(時事通信フォト)
《あまりに悪質》障害者向けマッチングアプリを悪用した組織的ぼったくりの手口、女性がターゲットをお店に誘い出し…高齢者を狙い撃ちする風俗業者も
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン
“じゃないほう”だった男の挑戦はまだまだ続く
「いつか紅白で『白い雲のように』を歌いたい」元猿岩石・森脇和成が語る有吉弘行との「最近の関係性」
NEWSポストセブン
白鵬の活動を支えるスポンサー企業は多いと思われたが…
白鵬「世界相撲グランドスラム」構想でトヨタ以外の巨大スポンサー離反の危機か? “白鵬杯”スポンサー筆頭格SANKYOは「会見報道を見て知った。寝耳に水です」
週刊ポスト
6月13日、航空会社『エア・インディア』の旅客機が墜落し乗客1名を除いた241名が死亡した(時事通信フォト/Xより)
《エア・インディア墜落事故》「ボタンが反応しない」「エアコンが起動しない」…“機内映像”で捉えられていた“異変”【乗客1名除く241名死亡】
NEWSポストセブン
金スマ放送終了に伴いひとり農業生活も引退へ(常陸大宮市のX、TBS公式サイトより)
《金スマ『ひとり農業』ロケ地が耕作放棄地に…》名物ディレクター・ヘルムート氏が畑の所有者に「農地はお返しします」
NEWSポストセブン