ここ数年、クオリティーの高いホラー作品が次々と公開され、人気を呼んでいる。Netflix(以下、ネットフリックス)で配信された台湾映画『呪詛』(2022年)は現地で大ヒットするだけでなく、日本でも配信1週目に『今日の映画TOP10』で1位を獲得。タイ・韓国合作の『女神の継承』(2021年)もヒットしている。そんな人々を魅了し続けるホラー映画の歴史を少し振り返ってみよう。
Jホラーの原点は、60年前のイギリス映画にあり
ホラー映画の登場は映画創成期の20世紀初め。1910年に「フランケンシュタイン」を扱った映画が製作されている。「怪物が出てくる映画が作られる一方で、古くから心理的恐怖が感じられ、いまの日本のホラーに通ずるような作品があります」と、『呪怨』シリーズを世に送り出した映画監督の清水崇さんが言う。
「ぼくがいままで見た中で、これは日本のホラーに通ずると感じたのは、イギリスの『回転』(1961年)という映画です。幽霊が人々を襲って恐怖に陥れるのではなく、物音や影などで気配を感じさせ、ぼんやりと佇んでいるだけで恐怖を感じさせる作りになっている。これは、ぼくだけでなく先輩の黒沢清監督や同業者も、影響を受けたと言っていました」
インディーズ映画が変えたホラー界の新たなジャンル
1970年代になると、アメリカのホラーが勢いを増す。1973年、悪魔払いをテーマにした『エクソシスト』(1973年)は、少女の首がぐるっと回ったり、ブリッジ姿で階段を下りるなどの斬新な演出が話題となり、オカルトブームを巻き起こした。
1980年代に入ると『13日の金曜日』(1980年)や『エルム街の悪夢』(1984年)など、サイコパスな殺人鬼が登場する「スラッシャー」というジャンルが人気を博す。
1990年代には、あるインディーズ映画がホラー界を牽引する。それは、1999年にアメリカで製作された『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』だ。6万ドルと超低予算で製作されたのにもかかわらず、世界興行収入2億4050万ドル(日本円で約250億円)を記録。この後、「モキュメンタリー」(擬似ドキュメンタリー)と「POVホラー」というジャンルが出来上がる。ツイッターでホラー映画情報を発信するホラー映画取締役さんはこう話す。
「POVは“Point of view”の略で、一人称で描かれる映画のことです。登場人物が撮ったかのような映像で話が進んでいくため、自分もその映画の世界に入り込み、恐怖をリアルに体感できるのが特徴です」
この手法は『呪詛』や『女神の継承』でも用いられている。
時代によって変化し続けるホラーのジャンル
血しぶきが上がり、残酷な描写がある作品もホラー映画の特徴の1つではあるが、「やはり根底にあるのは、人間ドラマ」と言うのは、映画執筆家の児玉美月さんだ。
「ホラー映画は少女の性や同性愛を扱うものもあります。近年ですと、女性を主人公にした『透明人間』(2020年)では、ホラーの“体”を保ちながら、きちんとフェミニズムも描いている。
ホラー作品に限らず、映画界は長らく差別や女性蔑視に支配されていたところがありましたが、数年前からその改革に映画界全体で取り組み始めたこともあり、それが映画のテーマとして反映されている作品も多いんです。恐怖を喚起させるものの裏に起因しているものをひもとくと、社会から排除や弾圧されてきたものが何か、見えてきます」(児玉さん)
【プロフィール】
映画監督・清水崇さん/代表作に『呪怨』シリーズ(1999〜2006年)、映画版『呪怨2』(2003年)、『犬鳴村』(2020年)などヒットを連打している日本ホラー界の巨匠。
ホラー映画取締役さん/ツイッターで世界中のホラー映画情報を取り締まり、紹介する会社の代表取締役(@torishimaru)。フォロワー数は2万4000人以上。
映画執筆家・児玉美月さん/映画にまつわる批評を執筆。書籍『ジョージ・A・ロメロの世界──映画史を変えたゾンビという発明』(ele-king books)に執筆。
取材・文/廉屋友美乃
※女性セブン2022年10月13日号