認知症から糖尿病まで──昨今の研究で口の中の健康が全身の健康に密接に関連していることが明らかになってきた。だが、それらの中には「時代遅れ」の知識が蔓延しているという。高谷秀雄歯科クリニック院長の高谷秀雄さんが問題視するのは、「虫歯予防のための歯間ブラシ」だ。
「歯間ブラシは歯茎と歯の間についた汚れは取ることができ、歯周病の予防には有効ですが、歯と歯の間についた汚れに対応することは難しい。日本人に多いのは歯と歯の間にできる虫歯であり、この部分の汚れを取るためには、糸状のデンタルフロスの使用が必要です」(高谷さん・以下同)
高谷さんが指摘する間違った虫歯予防法はほかにもある。
「キシリトールガムを愛用している人も多いですが、残念ながらガムを多用して虫歯を予防するエビデンスはない。虫歯の原因菌は、砂糖をエサに酸を作って歯を溶かします。しかしキシリトールから酸を作ることはできないため、キシリトールを使ったガムの方が虫歯になりにくいとはいえますが、ガムだけでの予防効果までは期待できません。特に、歯磨きをキシリトールガムで代用するのは言語道断。これはマウスウオッシュも同様です」
歯ブラシに関しても間違った知識を持っていないだろうか。
「硬い歯ブラシで磨くと出血するからといって、柔らかい歯ブラシを選ぶのは逆効果。そもそも歯茎から血が出るのは歯ブラシのせいではなく、きちんと磨けていないために歯茎に炎症が起きて、出血するためです。そのうえ柔らかすぎる歯ブラシは歯間に入りにくいゆえに充分に汚れを取ることができず、症状を悪化させます。出血しやすい人ほど、ふつう・硬めのブラシを選んでしっかり汚れを落としてほしい」
かつては1日2〜3回が目安といわれていた歯磨きの回数だが、現在は間食も含め食後すぐに磨くのが理想的だ。
「食後は口の中が酸性になり、3〜4時間後には歯が溶け始めるため、食後や間食をしたらその都度すぐに磨くべきです。歯を磨きすぎると削れて知覚過敏の原因になるという説もありが、真っ赤な嘘。歯ブラシで磨いたくらいで歯は削れません。実際、電動歯ブラシで2万回以上磨いても変化がなかったという調査があるほどです。
また、健康のために就寝前に水分を摂る人も多いですが、歯のためにはお茶は控えてください。普通の水であれば中性ですが、お茶の多くは弱酸性です。日中であれば唾液で中和できるレベルの弱い酸ですが、就寝時は唾液の自浄作用が低下するため、口腔内が酸性に傾きます。実際、寝る前にお茶を飲む習慣のある高齢者は、歯が溶けていることが多いのです」
うがいと重ね着は風邪を遠ざけない
季節の変わり目で気をつけたいのが間違った風邪予防だ。秋津医院院長の秋津壽男さんが指摘する。
「寒いからといって重ね着をして体を温めすぎると、かえって風邪をひきやすくなります。寒い季節は自然に逆らわず、寒さに体を順応させる方が健康にいい。厚着で暖かい屋内にいれば汗をかき、そのまま外に出れば汗が冷えるので、余計に風邪をひきやすくなる。つまり、暖房の使いすぎも逆効果なのです。
また、帰宅後の手洗いうがいは効果的ですがうがい薬は必要ない。京都大学の研究によれば、水によるうがいの方がより高い風邪予防効果がありました」(秋津さん・以下同)
新型コロナの流行により免疫力アップの方法も注目を集めたが、無意味なものもある。
「手っ取り早く免疫力がアップすると話題のビタミンC点滴は、実際にはまったく意味がない。ビタミンCは水溶性であるため、一度に大量に摂取しても尿として体外に排出されます」
※女性セブン2022年10月13日号