10月4日に就任から1年を迎えた岸田文雄首相が政務担当の首相秘書官に、公設秘書で長男の翔太郎氏(31)を起用したことが波紋を広げている。安倍晋三元首相の「国葬」や旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と自民党の関係をめぐって支持率が急落するなか、“身内びいき”に見える人事がさらなる批判を招く可能性が懸念されている。
世襲政治家の多い自民党では、公設秘書や大臣秘書官に後継者候補である親族が起用されることが珍しくない。安倍元首相も、父・晋太郎氏が外相を務めた際に大臣政務秘書官となったところから、政治の世界でのキャリアをスタートさせた。ベテラン政治ジャーナリストが言う。
「昨年、総務省幹部が放送事業会社から高額の接待を受けていた問題が発覚しましたが、事業会社サイドで接待役を担ったのが当時の菅義偉首相の長男でした。長男は、菅氏の総務相時代に『大臣政務秘書官』を務めたことがあり、その際に総務省サイドと接点ができたとして注目が集まりました。
安倍氏の実弟である岸信夫・前防衛相も大臣秘書官に長男の信千代氏を起用しており、先々に地盤を譲る後継者候補と目されています。公務員である秘書官の給与は当然、税金から支払われていますが、自民党においては政治家の世襲の“ステップ”として使われている側面があるのです」
今回の岸田氏と同様に、息子を首相秘書官にした例としては、福田康夫元首相のケースがある。2007年に首相に就任すると、長男・達夫氏を秘書官に起用した。その後、2012年に政界引退を表明すると、達夫氏は地盤を引き継いだ後継候補として当選を果たしている。前出・ベテラン政治ジャーナリストが続ける。
「達夫氏は2021年には当選3回で閣僚未経験ながら党総務会長に抜擢されるなど順風満帆なキャリアで、“清和会のプリンス”とも呼ばれました。ただ、叩き上げの政治家と比べてやはり世襲政治家は苦労を知らず、危機に対応する能力に欠けているケースが少なくない。達夫氏も、旧統一教会問題が噴出した時に会見で『正直に言う。何が問題か、僕はよくわからない』と失言して大炎上。釈明に追われて一気に評判を落とし、今年8月の人事では党四役の一角である総務会長から筆頭副幹事長に“降格”となりました。
達夫氏も翔太郎氏も、慶應大学法学部卒で大手総合商社を退社して政治の道に入るなど、その歩みが重なって見える部分が少なくない。岸田首相自身、祖父も父も衆院議員という“3世議員”であり、将来的には息子の翔太郎氏に地盤を譲ることを考えているのかもしれないが、身内びいきにしか見えない登用でキャリアを積ませても、いい結果につながるかは不安が大きいと言えるでしょう」