“アメリカ最先端の手術”“ヨーロッパ基準の治療“──病院のホームページやテレビの健康番組にはこうした情報があふれている。海外で開発された最新の方法と聞けば効果があると思いがちだが、そうとは限らない。主婦の高田真紀子さん(72才・仮名)は、昨年受けた膝の治療を後悔している。
「痛みがなかなか治まらなかったので、『アメリカで開発された最新治療』といわれるレーザー治療を受けてみました。しかし、かなり高額だったにもかかわらずまったく改善しなかった。でもその後、別のクリニックで痛み止めと湿布をもらったらすぐに治まったんです。これまで海外の最新式はなんでも正解だと思っていたけれど、考えてみれば体格も食べているものも違うから、効くかどうかはまた別の話ですよね」
高田さんのような例は決して珍しくない。実際、新型コロナの感染状況ひとつとっても欧米と日本では大きく違った。コロナ禍によってその差違があぶり出されたいまこそ、本当に日本人の体に合った医療を取捨選択すべきだ。
独特の形をした日本人の胃
新潟大学名誉教授の岡田正彦さんが指摘する。
「アメリカのメジャーリーグの中継を見ていても、欧米人と日本人は一目でわかるほど大きな体格差がある。彼らと同じ薬や治療でいいのかという疑問が生じるのは当然です。私は高脂血症の研究が専門ですが、現場の実感として日本人のコレステロール値を下げる薬の適量は欧米人の4分の1。同量は効きすぎると感じています。体格差に加え、薬を体内で分解する際の代謝酵素の違いも理由として挙げられます」
銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんも、日本人は薬を吸収しやすい体質だと話す。
「国内で承認されている医薬品の効き目について、欧米人と日本人で比較した東京大学の調査があります。それによれば、同量を投与した場合、119ある薬のうち45%で、薬の血中濃度に差があることが明らかになった。つまり、日本人は少量でもよく効く半面、同量では副作用が出やすいといえます」
なぜこのような違いが生じるのだろうか。長澤さんが続ける。
「体格や代謝酵素はもちろん、消化・吸収を行う胃腸の形状の違いも関係している可能性が高い。日本人の胃は中央部の湾曲した部分が、出口である幽門部より低い位置にあるため、食べ物がたまりやすいのです。腸も欧米人より長く、薬がより長く体内にとどまりやすい構造をしているといえます」
東京大学大学院薬学系研究科准教授の小野俊介さんは、人種間の遺伝子の差違を指摘する。
「白人や黒人、アジア人など、人種によって効く薬が異なることは昔から示唆されていました。たとえば、日本で未承認の心不全薬『バイディル』は、黒人には効果がありますが、白人には効きません。そうした遺伝子の違い以上に、民族特有の生活習慣や食文化も効き目を左右する要素です。たとえば日本人は納豆をよく食べますが、納豆が薬の作用に影響を与えることがある。韓国の国民食であるキムチも同様です」
実際、キムチに含まれるチラミンは抗うつ剤と相性が悪く、納豆は血液をサラサラにするワーファリンの働きを阻害することが報告されているほか、日本人が大好きなまぐろやみそ汁の友であるしじみ、韓国料理に欠かせないとうがらしなどにも相性の悪い薬が存在する。体格差や体質から食文化まで、どこの国に生まれたかは、治療や薬の効果に大きく影響するのだ。
※女性セブン2022年10月20日号