【書評】『人口戦略法案 人口減少を止める方策はあるのか』/山崎史郎・著/日本経済新聞出版/2640円
【評者】山内昌之(富士通フューチャースタディーズ・センター特別顧問)
日本の人口はこのままいくと2065年までに8800万となる。人口は、ピーク時の2010年の3分の2強まで減る。日本政府だけでなく心ある日本人は、人口1億人の死守を目指しているが、その達成方法は誰も知らない。
本書は、その具体的シナリオを小説仕立てで描き、首相と野党議員の質疑応答、担当官庁の役人たちの構想力と政策力から教えられるところの多い書物である。数字やデータは本物であり、政府で高齢者介護・少子化対策・若者雇用対策に携わった著者の政策的な人口問題入門書としても迫力がある。
日本では、国会で「人口戦略法案」が通らないと何もできない。ところが、人口の長期戦略における重要性は誰もが認めても、票になる予算関連法案と違って、普通の議員は関心を持ちたがらない。
2100年に日本人口は6000万人となり、それ以降も人口は減少し続け、65歳以上の高齢化率が38.3%に達する超高齢化社会が到来する。年間の人口減少が60万人(鳥取県の人口と同規模)を超える年が今後90年間も続く。
この三現象が一体として起きることが重要なのだ。しかし、2100年に9000万(約1億人)の人口規模で安定するなら、日本は「若返り」を始め、高齢化率は27%で安定する。そして人口減少期間の短縮も起きるというのだ。
心配なのは、人口減少が日本社会に深刻な対立をもたらすことだ。長い下り坂の時代に生れた将来社会で果てしなく人口が減少し、町が消滅する。活路を見出せない将来世代の不満は、確実に高齢者世代に向かい、「世代間の対立」が引き起こされかねない。
著者は成長だけでなく分配を重視し、親世代が子ども世代の夢や希望に投資する「子ども保険」の制度を提案する。未来投資は、人口減少をくいとめ、世代間対立への「予防的社会政策」の役割も果たす。子ども保険を6.8兆円の国民負担増であり、出生率目標を「国家的なセクハラ」だという批判も出そうだが、国民も大いに議論すべき問題提起は素晴らしい。
※週刊ポスト2022年10月21日号