多くの中高年を悩ませるのが「ひざ痛」だ。『ひざの激痛が30秒~でよくなる ひざ皿ストレッチ』の著者で千葉大学整形外科学講座客員教授の渡辺淳也医師が語る。
「ひざ痛を訴える人の9割以上は、ひざ関節の軟骨がすり減ることで発症する『変形性膝関節症』と考えられ、推定800万人の中高年男性が患っているとされます」(以下、「 」は渡辺医師)
ひざの痛みで病院に行っても、なかなか症状が改善しないこの病気。その原因の一つが、「ひざ皿まわり」にあるという。
「薬を飲んでも湿布を貼っても、しばらくするとまた痛みを感じるようになり、いつまでも痛みがなくならないのは、痛みの原因を根本的に解決していないからです。いわゆる『対症療法』では、変形性膝関節症の進行を止めることはできません。
そして、変形性膝関節症による痛みを伝えるのは、すり減った関節軟骨そのものではなく、ひざ皿まわり(膝蓋下脂肪体)に多く分布する神経です」
その痛みに対処するには、ひざ皿まわりをほぐす必要があるという。
「具体的には、変形性膝関節症の進行で関節の内側を覆う『滑膜』の炎症が繰り返され、その影響でひざ皿まわりが硬くなり、衝撃を和らげるクッションとしての役割が果たせなくなります。ひざへの衝撃をダイレクトに受けるため、より神経が反応して痛みを感じるのです。まずは、硬くなっているひざ皿まわりをほぐさなければなりません」
なお、老化が関係する変形性膝関節症は、一度発症するとなかなか進行が止まらない病気でもある。関節軟骨は次第に減り続けるため、病気の進行を止めたり遅らせたりするには、ひざ関節を衝撃から守るクッション機能を維持する必要がある。
そのために渡辺医師が患者に推奨するのが、「ひざ皿ゆらし」と呼ぶストレッチだ。
「椅子に座ってひざを伸ばし、両手の親指と人差し指でひざ皿部分を囲むように押さえます。そのまま上下左右に両手を動かし、ひざ皿をゆらすだけです。上下に10回、左右に10回、それを10度繰り返すのを1セットとし、1日2~3セットを目安に1か月続けると、痛みが気にならなくなります。この運動でひざ皿まわりが柔らかくなると、痛みに敏感な『膝蓋下脂肪体』への刺激が抑えられ、ひざの痛み自体が軽減するのです」
変形性膝関節症では、ひざ皿を支える太ももの筋肉も硬くなってしまう。その太ももを伸ばしてほぐすことで、さらに痛みは軽減される。それには、渡辺医師が「ひざ皿直結太もも伸ばし」と呼ぶ運動が効果的だ。うつ伏せに寝て片手で同じ側の足の甲を持った状態を30秒キープするだけ。太ももの前の筋肉をゆっくり伸ばす運動だ。
立ったまま肩幅に足を開き、ひざを軽く曲げ伸ばしする「ひざ軽屈伸」も、1セット30秒~1分を1日数セット続ければ、ひざ痛を抑える効果が期待できるという。
「変形性膝関節症による滑膜の炎症を抑えるためには、ひざ皿まわりだけでなく、ひざ関節全体を柔らかくする必要があります。そのために、ひざの曲げ伸ばしに重要な筋肉である大腿四頭筋、太ももの裏側のハムストリングスを伸ばし、筋肉を鍛えることで、ひざへの衝撃を吸収できるようになります。つまり、ひざ全体の柔軟性、クッション機能が強化され、滑膜の炎症を減らすことができるのです」