体格差や体質から食文化まで、どこの国に生まれたかは、治療や薬の効果に大きく影響するという。だからこそ、日本人なら“欧米式”ではなく、日本人に合った治療法を選んだほうがいいのだ。
生活習慣病からがんまで、治療や投薬が必要な病気は数え切れないが、その中でも特に“欧米式”が弊害をもたらすものがある。まず気をつけるべきは生活習慣病の代表格である高血圧だ。日本では3人に1人が高血圧といわれ、推定4300万人の患者がいる。東都クリニック高血圧専門外来医の桑島巌さんの解説。
「そもそも欧米人と日本人では、高血圧のタイプが異なります。白人のアングロサクソン系人種は、遺伝的に血管を収縮させるレニンが多い『高レニン体質』の人が多いことがわかっています。そのため、血管が狭まって血管の壁に圧力がかかる『血管ギューギュー型』の高血圧になりやすい」
一方、日本には「低レニン体質」の人が多い。
「日本人の血液はレニンが少なく血管が収縮しづらいうえ、和食は塩分含有量が多い。血中に塩分が増えればそれを薄めるために体は水分を血液に取り込もうとします。すると血液中の水分が増加して血管の壁に圧力がかかり、高血圧になる。白人とは真逆の『血管パンパン型』です」(桑島さん)
そうした違いから、血管を拡張して血圧を下げるタイプの降圧剤は、日本人には不向きだと桑島さんは言う。
「ARBやACE阻害薬はレニンを抑制することで血管を拡張し、血圧を下げる薬です。『血管ギューギュー型』が多い欧米人には効果が出やすいが、低レニン体質の日本人には効果が出にくい。日本人の高血圧には、水分を体外に排出する利尿降圧薬や、レニンに関係なく直接血管を広げるカルシウム拮抗薬の方が有効です」
高血圧と同様、“予備軍”も含めて多くの人が悩まされている糖尿病にも、日本人に向かない治療がある。銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんが解説する。
「日本人は欧米人と比べてすい臓の働きが弱く、血糖値を下げるインスリンの分泌量がもともと少ない。そのため、インスリンの分泌を促して血糖値を下げるSU剤は、効果が出づらい傾向にあります」
日本人の糖尿病は空腹時に血糖値が上がる欧米人と反対に、食後、急激に血糖値が上昇する「血糖値スパイク型」が多い。そのため、食事の直前に服用して血糖値を抑える「αグルコシダーゼ阻害薬」などが適している。
効かないばかりか、体を蝕む治療もある。東京大学大学院薬学系研究科准教授の小野俊介さんが言う。
「肺がん治療に使われる『イレッサ』という抗がん剤は、欧米人とアジア人で効き方が違うことが明らかになっています。間質性肺炎などの副作用が出やすく、過去には投薬が原因で亡くなる患者もいた。薬害の訴訟問題に発展したこともあります。現在は適用の条件を事前に確認したうえで使用されていますが、注意が必要です」
※女性セブン2022年10月20日号