腰痛やひざの痛みと同様に多くの人が悩むのが「肩の痛み」だ。「肩こり」に代表されるように慢性的な症状が多いが、これについて「医学的に“万能薬”のような解決方法はない」と言うのは、横浜市立大学附属市民総合医療センターの北原雅樹医師(ペインクリニック専門医)だ。
「肩こりは“日本人特有”の症状で、西洋はおろか東南アジア、中国や韓国でもそのような概念はないようです。医学的にも定義されているわけではなく、一口に肩こりといっても首、首の付け根、背中、肩甲骨と痛みが出る場所はそれぞれ。痛みの原因となる場所をピンポイントで見極めて、取り除くのはとても難しいことです」
こっていると感じる場所をマッサージなどで揉んでも、実は原因が他の場所にあることも多いのだという。肩こりの根本的な解決を目指すのであれば、まず大事なのは「姿勢」だと北原医師は指摘する。
「ストレートネック(頭の重さを分散させている頚椎のカーブが、俯いた姿勢を続けることで真っ直ぐに変形すること。首まわりの筋肉が常に緊張し、様々な全身症状を引き起こすとされる)や猫背が原因で肩こりになると言われますが、それは間違い。ストレートネックや猫背はむしろ結果で、問題は筋肉の衰えで正しい姿勢ができないことにあります」
正しい姿勢を保つには、骨盤底筋や脊柱起立筋などのインナーマッスルが大事だと北原医師は言う。
「身体の深部にあるインナーマッスルはピンポイントで鍛えることが難しい反面、正しい歩き方をすれば自然と動いて、筋力が維持され、衰えを取り戻すことができます」
まずは、家にある「姿見」で自らの姿勢と向き合うことが大事だという。
「左右の肩の高さは同じか、正面を向いて首を左右に傾けた時に一方だけに痛みや張りを感じないかなど、全身をセルフチェックすると姿勢や筋肉の状態を把握できます。それにより、ストレッチや運動で自分がどこを意識すればよいか分かると思います」
福井医療大学教授で理学療法の第一人者である藤縄理氏も姿勢の大切さを説く。
「正しい姿勢をとっていても、ずっと同じ姿勢でいれば肩こりになります。正しい姿勢をとった上で、例えば1時間ごとにストレッチを挟むといいでしょう」
藤縄教授監修のもと、日常での正しい姿勢を図に示した。
「立っていても座っていても、正しい姿勢は3つのステップで完成します。まず、【1】背すじを伸ばし、【2】あごを引いて胸を張り、その後、【3】下腹部とお尻の穴に少し力を入れて完成です。下腹部に力を入れる時は最初は排尿を止めるようなイメージで骨盤の下をぎゅっと締め、その力を3割程度に緩めるのがポイントです」(藤縄氏)