【書評】『白髪の国のアリス 田村セツコ式 紙とえんぴつ健康法』/田村セツコ・著/集英社/1980円
【評者】嵐山光三郎(作家)
「セッちゃん」の愛称で親しまれているイラストレーター田村セツコさまは、1960年代の少女雑誌「少女ブック」や「りぼん」の表紙でおなじみの白髪美人だ。
白髪を染めずにナチュラルにカールして、リボンをつけ、シンデレラ姫のようにランラーンと原宿通りを歩いている。80歳すぎても少女のままで、居酒屋では樽の椅子にあぐらを組んで、茶碗酒を飲むんですよ。豪快にしてチャーミングで、いつもゴキゲン。美術展もやるし、青山の秘密のアトリエで、お皿やグラスをぴかぴかにみがく。スポンジを泡立て洗うのが楽しみなんだって。
どうしたら、セッちゃんみたいに自由自在に生きることができるんだろう。(1)絵日記のかきかた、(2)手芸(古い毛糸の人形)、(3)くいしんぼ物語、(4)ぬりえ、(5)SMILEを着る、ほかセッちゃんの魔法練習帳が、ステキな絵入りで出てきます。
セツコ式「紙とえんぴつ健康法」とはなにか。セッちゃんが「白髪の国のアリス」ならば、私も「ピノッキオのゼペット爺さん」になってこのままノコノコと生きていこうと力づけられた。
セッちゃんは長いあいだ老母介護をしてきた。年老いた親が、何か思い出話とか気になる考えをつぶやいたときは、耳もとで「さすが」とささやく。これは「しっかりしてよ」なんて言うより、ずっとキキメのある、あたたかく甘いお薬です。とセッちゃんはいう。
そうなんだ。セッちゃんの生き方はシンプルで、困ったことも楽しんでしまう。年をとると、しょっちゅう忘れ事をしたり、物をなくしたりするが「やったー、脳が喜んでいるよ」と楽しんでしまえばいいんですね。
「白髪の国のアリス」はハッピーになる魔法練習帳。「大人の絵日記のコツ」が役に立ちます。絵がうまい、ヘタは関係ない。割りばしと紙ねんどで作る人形や、新聞やチラシを使ったコラージュ、古ボタンのアクセサリーまで、セッちゃんの魔法がもりだくさんです。
※週刊ポスト2022年10月21日号