安倍晋三元首相の銃撃事件以降注目されている旧統一教会だが、信者の家族に与える影響は甚大だ。電話やメールで相談を受ける「全国統一協会被害者家族の会」に寄せられた相談件数は、今年の5月に6件、6月に12件だったが、安倍元首相銃撃事件が起きた7月は109件、8月は136件と急増している。旧統一教会問題を長く追及する紀藤正樹弁護士が語る。
「家族の相談で多いのは、子供が入会するケースと、夫婦のどちらかが入会するケース。子供の場合は急に連絡が取れなくなり、親が右往左往します。夫婦の場合は信者になった妻が家事をしない、家を空けがちになるなど、夫婦喧嘩が増えて家庭生活が成り立たなくなる。
また、どちらのパターンも高額献金などが家族の絆を引き裂きます。親族に信者が1人いるだけでそれまでの関係が悪化し、崩壊していく」
気づいた時にはすでに甚大な被害が発生している、というケースも見られる。
「一般の新興宗教は家族を勧誘する場合が多いが、統一教会は家族と揉めることを嫌がり、入会を家族に知られないようにする」(紀藤弁護士)
都内の60代男性・Bさんは2006年頃、突然の被害発覚に驚いた。
「親戚のひとりから突然『お母さんが大変なことになってるから、ちょっと話聞いてあげて』との連絡があったんです。実家に帰って確認すると、10年前に亡くなった父の退職金を含めて4000万円ほどあった口座の残高がカラになり、財布にはパンを買うお金もなかった。先に夫を亡くした母に、近所にいる統一教会の信者が取り入ったようで、気づいた時には母は一文無しで食べるものにも困っていました。
母は怒られるからと、親戚に『息子には言わないでくれ』と話していたらしいんです。地元の友人と楽しくやっていると思って放っておいたのがよくなかったのか……。話をした時には母はすでに脱会を決意していました。逆に言えば、母がそうなるまで気づけなかったということです」
ITジャーナリストの星暁雄氏は、1995年に親族を脱会させた経験を持つ。
脱会カウンセラーの牧師と数か月かけて準備し、「お祝い事をするから」と信者の親族をマンションに呼び出し、テレビのない部屋から一歩も外に出ずに保護説得に励んだ。
その過程で家族が激しくぶつかることがあった。
「話し合いの途中、本人が兄弟に対して『昔からいじめられていた』と不満をぶつけ、親に対しても『構ってくれなかった』と文句をぶちまけた。本人と家族が激しく言い合って喧嘩になり、お互いに涙を見せる場面もありました。家族に対する思いを吐き出すことで、関係を作り直す面もあったのでしょう」(星氏)