ライフ

【新刊】現代とも重なる江戸末期の財政赤字を描いた浅田次郎氏の新作『大名倒産』など4冊

<キャプション>
現代とも重なる江戸末期の財政赤字。貧乏神のキャラが妙に忘れられない

現代とも重なる江戸末期の財政赤字。貧乏神のキャラが妙に忘れられない

 厳しい暑さが終わり、すっかり秋めいてきた。読書の秋にぴったりな新刊4冊を紹介する。

『大名倒産』
浅田次郎/文春文庫/上下巻、各858円

 殿と村娘の間に生まれた足軽の小四郎。深謀遠慮により21歳で新藩主となるが、なんと藩の財政は火の車。隠居の父は前代未聞の計画倒産を目論み、若殿の切腹で締めようと企んでいた。そんな酷薄な〜。新藩主として初めて領地(新潟)を訪れ、この美しい地を失ってはならないと奮起、側近らと知恵を絞る。著者は泣かせの手練れ、滑稽さの中にふいに表れる養父や兄弟との情に泣く。

<キャプション>
別れた妻や賢い娘、助手になる医学生。人間関係の綾でも読ませる法医学ミステリー

別れた妻や賢い娘、助手になる医学生。人間関係の綾でも読ませる法医学ミステリー

『警察医の戒律』
直島翔/角川春樹事務所/1760円

 NYでキャリアを積み、横浜に戻ってきた法医学者の幕旗治郎。祖父の代からの医院を法医学研究所とし、女性のミイラ体、スーツケースの中の若い女性の死体、球場での転落体などの検視を行い事件の謎を解く。日本は検視が少なすぎる(犯罪の隠蔽に繋がる)と告発する本を読んだことがある。同じ問題意識のこのエンタメ、横浜の風光明媚さもあってシリーズ化を希望する。

<キャプション>
家賃・光熱費・通信費込みで5万円。適度な距離の連帯で、今を生きる

家賃・光熱費・通信費込みで5万円。適度な距離の連帯で、今を生きる

『若葉荘の暮らし』
畑野智美/小学館/1980円

 コロナ禍で気をもんだのはシングルマザーや単身女性達のこと。まさにそんな小説で、ミチルは洋食屋でのバイト収入が減る中、40才以上独身女性限定のシェアハウスに移る。80〜90代のトキ子さん、50代のバリキャリ真弓さんやバツ2の美佐子さん、書けない同世代作家の千波や介護職の幸子。不安に淫せず自分の背骨を見つける過程が素敵。これぞ“夢の暮らし”と夢を見る。

<キャプション>
年長者や力ある者が自分の言葉に酔う「意味の占有」など深くうなずくことばかり

年長者や力ある者が自分の言葉に酔う「意味の占有」など深くうなずくことばかり

『会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション』
三木那由他/光文社新書/1012円

 著者は分析哲学の若き研究者。会話とは情報の伝達というより約束事を形成するものではないか。こんな命題から始まる。スレ違う約束、水面下の約束、あえて言わない約束などを漫画や映画などから引用して解説する。マニピュレーションとは操作のこと。会話が主音声だとすれば人の心を操ろうとするのは副音声だとする。LGBTの立場も解説してくれ言葉の地平が広くなる。

文/温水ゆかり

※女性セブン2022年10月20日号

関連記事

トピックス

山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
「衆参W(ダブル)選挙」後の政局を予測(石破茂・首相/時事通信フォト)
【政界再編シミュレーション】今夏衆参ダブル選挙なら「自公参院過半数割れ、衆院は190~200議席」 石破首相は退陣で、自民は「連立相手を選ぶための総裁選」へ
週刊ポスト
Tarou「中学校行かない宣言」に関する親の思いとは(本人Xより)
《小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」》両親が明かす“子育ての方針”「配信やゲームで得られる失敗経験が重要」稼いだお金は「個人会社で運営」
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
もし石破政権が「衆参W(ダブル)選挙」に打って出たら…(時事通信フォト)
永田町で囁かれる7月の「衆参ダブル選挙」 参院選詳細シミュレーションでは自公惨敗で参院過半数割れの可能性、国民民主大躍進で与野党逆転へ
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
NEWSポストセブン