放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、阿部サダヲと香川照之、怪優が主演する異色映画についてつづる。
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長万部の水柱が収まったのに私はバタバタ。そんな中、好きな男連中に会えるのは嬉しい。呑み友達だった西村賢太を亡くし、突然相方には立候補されるしで、さぞかし心は“東京砂漠”だろうと思い浅草キッドの玉ちゃんこと玉袋筋太郎と久々。「玉」にとって私は芸界での「棹」のようなもの。ン? 元気そうで、嬉しそうで「実は私、孫ができまして」と玉の息子(玉の息子ってのもややこしいが)から預かったという手紙と孫の写真。そう言えばこの息子の結婚式、私が一番偉い人として列席、スピーチしたっけ。芸界ももう二代目から三代目の時代なのだ。玉も孫さえいりゃ大丈夫だ。
別の日、今やすっかり主演男優の肩書きで飯を喰っている阿部サダヲがニヤニヤして来る。みんな私の弟子のような世代である。この男も野球ばかりやっていて大型電機店に就職をしたのだが、さぼっていつも真昼間私のラジオを聴いていた。同じ頃、宮藤官九郎も私になりたくて日芸へ行ったがなじめず、昼間私のラジオだけを聴いていた。阿部はラジオからきこえる私の言葉で「寄席とか劇団とかがあるのを初めて知りまして……」と“大人計画”へ行ったら、同い歳のクドカンが同じタイミングで松尾スズキのところへ来ていた。
玉も阿部もクドカンも、皆な才能ある私のチルドレン。阿部が言いたかったのは「『アイ・アムまきもと』という映画が公開されますので、よかったら宣伝みたいなことを」と甘えてくる。本当に私のような男でも心がホッとする作品になってます。殺伐としたこの時こそ、この一本。
映画といえばこれも。最近テレビでは香川照之の姿を見ないが多分公開されるだろうと言うので試写会へ行き『宮松と山下』を見る。いい。この映画から、もう一度、人生、役者をやり直せばいい。
香川演じる主人公は端役専門のエキストラ俳優。来る日も来る日も斬られ撃たれ瞬時に消えてゆく。実は記憶喪失の男なのだ。香川もすべてを忘れエキストラから役者人生を歩み出せばいい。なにしろ上手い。
ライブは9月25日、水森かおりの中野サンプラザ、ラストコンサート。水森はサンプラザの人に問いつめた。「昭和48年に出来たサンプラザ、私もその年に生まれたんです。何で壊すんですか」にひと言「老朽化です」アハハ。紅白連続出場歌手も老朽化。
9月28日は遂に親孝行が実現した「神田松鯉(人間国宝)と伯山親子会」IN歌舞伎座。尽力した伯山に対し何より嬉しそうだった傘寿の松鯉。美しき師弟愛。
※週刊ポスト2022年10月21日号