ただ、この時は元教え子であり、捕手出身者でもある矢野氏の監督ぶりについて、まだまだ課題があると評していた。
「長嶋茂雄も王貞治も天才的な選手だった。苦労していないから哲学がない。彼らに共通しているのは目の前の状況に一喜一憂すること。味方がホームランを打つと真っ先にベンチを飛び出してくる。そして、阪神の矢野がそれと同じことをやっている。試合中に白い歯を見せ、選手と一緒にバンザイをする。私にはああいうことをする心境がわからないですよ。
川上哲治さんや西本幸雄さんが試合展開で一喜一憂していただろうか。喜ぶのはゲームセットの声を聞いた時だけ。試合が終わるまで喜んでいられないのが監督です。プロ野球の監督は裏方ですから。選手と一緒に大喜びして一体感らしきものを持ったところで、選手から信頼を得ているとはいえませんよ。
タイムリーやホームランで逆転したら、監督の立場として“よし”とは思うが、このあとどう守ろう、どう逃げ切ろう、と先のことが気になる。だから大喜びするのではなく、ピッチングコーチに“次を用意しているか”と聞くようになる。ところが、選手と同じレベルでベンチにいるから、点が入ったら大喜びするし、逆に同点に追いつかれたり、ピンチを招いたりすると大慌てすることになるんです」
それから3年。今回のCSファーストステージ第3戦では、ホームランを放ってベンチに戻ってきた佐藤輝明の首に、矢野監督は“虎メダル”をかけて喜んでいた。2020年に亡くなった野村氏が存命であれば、この場面をどう見ただろうか。
野村氏は3年前の取材の最後に、「あとは人間的な部分で、選手からどれだけ慕われるか。矢野はこれからだろう」とも話していた。そんな矢野氏にとって集大成となるCSの戦いが続いている。