北朝鮮ではこのところ、金正恩・朝鮮労働党総書記が「汚職根絶」を強調しており、すべての政府施設に「通報箱」を設置した。しかし、市民らは投書する際、氏名や所属機関などを書かなければならないことから、通報された側からの報復を恐れており、投書数も全く増えていないことが分かった。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が北朝鮮東部の咸鏡南道の住民の話として報じている。
北朝鮮では政府職員も他の北朝鮮国民と同様に、国からのわずかな給料だけでは普通の生活はできないという。そのため、ほとんどの職員が副業をしており、市場で商品を売るなどして生活費を稼いでいるほか、職務上の権利を行使して、市民に便宜を図り賄賂を得るなどしている。これについては誰もが知っている状態だが、見て見ぬ振りをしている。
こうした状況について、金総書記は党の重要会議で「社会主義国家に、賄賂は存在しない」として、汚職の厳重な取り締まりを命じたという。
これを受けて、北朝鮮当局は政府施設や工場、商店などに通報箱を設置するようになった。咸鏡南道の住民によると、これまで道・市・郡レベルの通報課の建物にしか通報箱がなかったが、つい最近、興南製薬の正門やデパートなどにも通報箱が置かれるようになったと明らかにした。
この住民は「この措置は私利私欲に目がくらみ、私腹を肥やす役人を特定するシステムを強化するという党中央の命令に従っている」と指摘した。
また、首都・平壌の北にある平安南道徳川地区にある自動車工場では、当局が工場に通報箱を設置し、労働者が通報するための便宜を図っている。「しかし、より通報できるからといって、汚職が減ると考える人はほとんどいない」と同地区の関係者はRFAに語っている。
通報の報告書類には、住所、氏名、職業を明記しなければならないため、通報する住民はほとんどいないという。通報箱を管理する通報課の幹部が汚職幹部と結託し、逆に通報者の汚職をでっちあげて、報復する例が後を絶たないためで、金総書記の汚職撲滅の訴えは実現しそうにはない状況だという。