安倍晋三元首相の銃撃事件以降注目されている旧統一教会の問題。信者が行う高額献金ゆえに、その家族にも被害を及ぼす。脱会カウンセラーなどの力を借りながら説得を続け、なかには親族の脱会に成功する家族もいるが、現実には家族の力が及ばないケースが少なくない。
漫画家の小林よしのり氏の叔母は、1980年代半ばに福岡から一家で上京後に旧統一教会の信者になり、家族の財産を壺や印鑑に注ぎ込んだ。
「叔母は夫の言葉や娘の涙、親戚の説得にも動じず『教会をやめるから500万円ちょうだい』と実家から受け取った大金を朝鮮人参茶480万円分の返済にあてることもあった。
見かねたわしの父が統一教会から引き離す奪還作戦を決行したが、叔母は実家から抜け出して信者の指導員に連絡し、教会に戻っていった」
小林氏は「奪還は不可能に近い」と訴える。
「周りがどれだけ説得しても、本人は『家族を助けるためにやっている』と信じ込み、夫の通帳から娘のバイト代まですべて『神様に返す』と言って教会に渡す。全財産を収奪しようとする統一教会の執念はすさまじく、一般の人が太刀打ちするのはほぼ無理だよ。叔母の家族は完全に一家離散、崩壊してしまった」
安倍元首相を銃撃した山上徹也容疑者の母親は旧統一教会に約1億円の献金をしたが、銃撃事件後、奈良地検の聴取に「教会に申し訳ない」と答えたとされる。息子があれだけの事件を起こしても、教団を離れないことが問題の根の深さを物語る。
旧統一教会問題を長く追及する紀藤正樹弁護士が、今後の課題を指摘する。
「信者の気持ちを完全に脱会させるには、入会していた期間と同じだけの時間がかかるとされています。脱会後も文鮮明氏の写真を見て教会の活動がフラッシュバックしたり、自分の人生を狂わせた教会に対し、何ともやり切れない感情が湧き上がることがある。こうした人たちへの精神的なケアが欠かせません」
親族を脱会させた経験を持つITジャーナリストの星暁雄氏が続ける。
「この先、旧統一教会への批判が強まる過程で信者の脱会が相次ぐことが予想されますが、決して一筋縄ではいかない。今の脱会の説得方法では、家族にかかる負担が大きすぎる。社会全体で脱会をサポートする仕組みが求められます」
2発の銃声が明らかにした社会の暗部。乗り越えるべき課題は多い。
※週刊ポスト2022年10月21日号