渡辺謙は『ラスト サムライ』に出演し、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされる。そして、これをきっかけにハリウッドやブロードウェイなどで活躍するようになっていった。キャスティング・ディレクターの奈良橋陽子氏に、渡辺謙が本作に配役された経緯について、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が聞いた
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奈良橋:日本人俳優のオーディションに来日した監督たちも日本に着いた直後で、時差ボケなどもあったのでしょう。本格的なオーディションにはならず、インタビューという感じでした。そのせいか、あまり監督の記憶に残らない結果になってしまったんです。
渡辺謙さんは、私もすごく推薦していました。当時はNHKの大河などはやっていらしたんですが、映画はあまりやっていらっしゃらなかったんですよね。
――たしかに、私も一ファンとしてあの当時は「もっと大きな仕事ができるのに!」と歯がゆかった記憶があります。
奈良橋:ちょうど謙さんが事務所を移られた頃だったんですよね。だから何も資料がなくて、私が調べていろいろ用意したんです。監督たちはそこから東京に行って、様々な俳優のオーディションが本格的に始まります。他の配役は決まっていったんですが、肝心の主役である「勝元盛次」役がなかなかいない――と。
そこで私は「最初に会った渡辺謙さんと、もう一度ぜひ会ってみてください」と監督に言いました。私は彼が一番いいと思って最初に紹介していたのですが、その後連絡できていなくて。
改めて彼をホテルに呼んでオーディションをすることになったのですが、特に構えることもなく、謙さんらしく、あっけらかんと、「いやあ、オッケー」みたいな感じで軽く入ってきて、やり始めた。やり始めたら、監督が私のほうを向いて、「うん!」って、非常にいい合図をくれたの。私も「嬉しい! Oh my God!」みたいに思って。
あのときは本当によかった。だって、主演が決まらなかったら困っちゃうじゃないですか。それに何より本当に彼がいいと思っていましたからね。ですから最初の時に、なんでちゃんとオーディションしなかったのかと思ったりもしましたよ。