10月7日、宇宙飛行士の若田光一さん(59才)が国際宇宙ステーション(ISS)に到着した。日本人宇宙飛行士として最多となる5回目の宇宙飛行で、ISSにおよそ半年間滞在する。
学習院大学法学部教授の小塚荘一郎さんは、こう話す。
「宇宙ロケットは真っ直ぐ打ち上げれば宇宙に行きますが、斜めに飛ばせばミサイルになります。宇宙開発の技術は、軍事に転用される恐れが高い。そのため1966年に合意された『宇宙条約』には、宇宙空間の領有の禁止や平和利用の原則などが定められています」
そうした国際協力と平和の象徴となってきたのが、ISSプロジェクトだ。ISSには、主要8か国首脳会議(当時)の全メンバー国(アメリカ、日本、カナダ、欧州各国、ロシア)が参加。特にアメリカとロシアという2つの超大国がパートナーシップを結んだ意義は大きく、自国にないものは他国から融通し合う“持ち寄りパーティー”スタイルは、各国の宇宙技術の発展に何役も買ってきたという。
ロシアが脱退してパワーバランスが変化
しかし今年7月、ロシアが2024年以降ISSから脱退することを表明。今年2月のロシアのウクライナ侵攻を機に、各国の対ロシア関係が悪化したためだ。
地上でも対ロシア経済制裁に反発して、ロシアの宇宙開発会社がイギリスの衛星打ち上げを拒否したり、ヨーロッパと共同で開発を進めてきた衛星事業からロシア人技術者が一斉帰国したり……多くの宇宙ロケットの打ち上げが困難となった。
「契約していたのにもかかわらず中止となったイギリスの衛星通信企業は約400億円の損失という大打撃を受け、イギリス政府もロシアとの協力関係を見直すという大きな問題へと発展しています。
もともとロシアは、ビジネスとして他国の衛星を積んだロケットを打ち上げていました。しかもその相場はわりと安価だったので、需要も高かった。ただこうした事情から、来年以降は依頼も激減すると思われます。今年は世界が苦労した分、来年からはロシアが苦労するのでは」(小塚さん・以下同)
無視できなくなった中国の躍進
そんななか、独自の動きを見せているのが中国だ。有人月面探査や月面基地建設に加え、中国単独の宇宙ステーション建設と運営を目指しているという。
「NASAが発足したのは1958年。当時の中国は3年大飢饉にあえぐなど、経済発展“前夜”でしたが、そのなかで苦労して宇宙開発を続けました。やがて経済大国になった中国としては“いまさら参加してやるものか”という自尊心もある。
NASAに頼らない独自の開発を目指すことになった中国に対し、アメリカ議会もまた、2011年にはISSプロジェクトに中国の参加は認めないことを決定しています。米中お互いに牽制し合う構図が見てとれます」
一方、日本はそうした宇宙の覇権争いに10年も20年も後れをとっている状況だ。小塚さんによれば「乗組員が乗船できる大型ロケットを開発できなかったこと」がいちばんの理由で、それにはロケットの価格が高額になることや、国家予算が下りにくいことも関係しているという。緻密さや丁寧さを美徳とする日本人だが、それが仇となり、宇宙の覇権争いに乗り遅れてしまったのだ。
取材・文/辻本幸路
※女性セブン2022年10月27日号