岸田文雄・首相が長男の翔太郎氏を政務担当の首相秘書官に就任させたことが「政治の私物化」と批判を浴びている。
翔太郎氏は31歳、慶応大学法学部政治学科を卒業後、大手商社・三井物産で6年勤務した後、2020年からは岸田氏の公設秘書を務めていた。
「今回の人事に当たっては、休日・深夜を問わず発生する危機管理の迅速かつきめ細かい報告体制、党との緊密な連携、ネット情報、SNS発信への対応など、諸要素を勘案し秘書官チームの即応力の観点から、総合的に判断した次第であります」
岸田首相は国会で長男起用の理由をそう説明した。翔太郎氏は公邸で首相と寝食をともにしており、「危機管理の迅速かつきめ細かい報告体制」とは“常に側にいるから連絡を取りやすい”、「ネット情報、SNSの発信」とは、首相のツイッターなどの更新をやらせるということのようだ。“カバン持ち”である。
官邸には各省から派遣された8人の秘書官がおり、筆頭格の嶋田隆・首相首席秘書官は経産事務次官経験者の大物官僚だ。
元文科官僚の寺脇研・京都芸術大学客員教授が首相秘書官の役割を語る。
「安倍晋三・元首相の政務秘書官だった今井尚哉氏は経産官僚出身で首相補佐官を兼務し、官邸官僚を束ねて官邸を仕切っていた。小泉純一郎・元首相の政務秘書官だった飯島勲氏は経験豊富なベテラン秘書で自民党内やマスコミに独自の情報網を持っていたことで知られる。タイプは違うが、2人とも秘書官として高い能力を持っていた。だからこそ小泉内閣も安倍内閣も長期政権を維持できた側面がある。岸田首相の長男の能力は未知数だが、経験の面では飯島秘書官や今井秘書官に劣ることは紛れもない」
その上で今回の人事にこう疑問を呈する。
「今回の人事のポイントは、岸田首相が30年間仕えたベテラン秘書の山本高義・前首相秘書官を辞任させてまで、長男を起用したことです。前任者に失態があったわけではないでしょう。首相は今の日本の状況について『数十年に一度の事態』と語っている。そう認識しながら、官邸の要となる政務秘書官を経験の浅い長男に交代させたのはなぜなのかを説明すべきです」