「レトロなおもちゃ箱みたい。落ち着いて飲める秘密の隠れ家です」と、長年通う女性客がのんびり寛ぐ『大西屋』。
JR大宮駅から東へ徒歩7、8分、日本でも指折りの古社である武蔵一宮氷川神社に続く一の宮通りに建つ店は、漆黒の壁面で軒先に下がる色彩豊かな提灯が印象的な外観だ。
店内は、4代目店主の堀江利武(としたけ)さん(58歳)が集めた骨董品が所狭しと並び、昔懐かしい風情を醸している。
「空き箱で精巧なミニカーも作る天才肌の趣味人」(50代)と常連客から一目置かれる店主が角打ちを始めたのは2004年のことだ。
「当時は酒屋とのスペースを壁で仕切って小窓を設けたスタイルだったんです。
30代の後半にオーストラリア・シドニーに旅したとき、やる気のなさそうな店主が小窓から酒を出している粋な酒屋を見て、インスパイアされましてね。酒屋の倉庫だった場所を改装して念願だった角打ちスペースを作ったんです。
角打ちには、『MATCH・BOX』と名付けてね。由来は英国製のミニカー。子供のころ、親父にねだって買ってもらった思い出があって、今でも一番のお気に入りの車なんです。
5年前に再び店を改装して、倉庫から酒屋に角打ちスペースを集約したから、今は、小窓スタイルではなくなりました」(店主)
「改装前は、壁のある小さな窓越しに会話をするから、店主の愛称は“神父さま”(笑)。今はもう小窓はないけど、常連の顔ぶれは変わらないですね。
カウンター脇のガラスケースに飾られた沢山の模型のミニカーは、マスター(店主)が全部空き箱で作っているの。懐かしいお菓子の空き箱製もあります。すごく精巧に作ってあるから全部ちゃんと走るんですよ。1個頂戴って言っても絶対くれないけどね(笑)」(50代)
「僕らが飲んでいるときに、奥でミニカーを淡々と作ってる(笑)。設計図が頭の中にあるんだろうね。何か気に入ったことを見つけると夢中になって、とことん追求する人だね」(50代、音楽関係)
立派な梁が剥きだしになった天井は高くゆったりとしている。梁を支える太い柱には年代物のねじ巻き式壁時計が掛かり、ボーンボーンと懐かしい音色で時を告げる。
「うちの蔵あった古いものや、骨董市なんかで買い集めたものとか、自分の好きなものを店に置いています。今はもう無くなったアメリカの航空会社のバッグは、商社マンで世界中を旅していた叔父から譲り受けたものですね」(店主)
「利武さん(店主)は蒐集家なんだよね。僕らが小学生のときによく通った模型屋さんが廃業するときに譲り受けた古いけど格好いいショーケースも店にあってね、学校帰りにじーっと眺めては店のおばちゃんに『買わないなら帰りな』って言われていたこととか思い出しちゃう。
客も個性的なこだわりのある人間ばかりだけど、不思議と居心地がいいから10年以上通っています」(60代)