岸田文雄・首相が長男の翔太郎氏を政務担当の首相秘書官に就任させたことが「政治の私物化」と批判を浴びている。ならば、同じく家族を秘書として雇い、血税で給料を払っている国会議員の面々は、なぜ許されているのだろう。
岸田ジュニアのケースは氷山の一角だ。翔太郎氏は秘書官に就任する前、岸田氏の公設秘書(政策秘書)を務めていた。公設秘書は秘書官と同じく特別職国家公務員で給料は税金から支払われる。
別掲のリストを見ていただきたい。
国会議員は政策秘書、第一秘書、第二秘書の3人の公設秘書を雇用することができるが、岸田氏と同様に、家族を公設秘書・大臣秘書官にして税金から給料を払わせている議員が衆参25人もいた。
議員の身内の公設秘書採用については小泉内閣時代に起きた民主党議員の秘書給与詐取事件【※】をきっかけに国民の批判を浴び、政治問題化したことがある。
【※/佐藤観樹・元自治相が2000年の衆院選直後、愛知県尾西市議会の前議長らと共謀し、前議長の妻の名義を借り、公設第二秘書として採用したかのように装った虚偽の関係書類を衆院に提出。同年7月末から約2年8か月間、秘書給与計約1700万円をだまし取ったとして、詐欺罪で懲役1年4か月の実刑判決を受けた事件】
当時、政界では妻や家族を公設秘書にしてほとんど勤務実態がないのに税金から給料を受け取るやり方が横行していた。そこで衆院議会制度協議会で公設秘書制度の見直しが検討されたが、最終的には国会議員秘書給与法で「配偶者」が禁じられただけで、息子など他の家族は規制されなかった。その後は各党とも親族の公設秘書採用を“自粛”していたが、いつの間にか増えていたのだ。
民主党事務局長を務めた政治アナリストの伊藤惇夫氏が語る。
「公設秘書の給料は一般職公務員に準じて決められており、勤続年数にもよるが、政策秘書なら年収1000万円くらい、第一秘書は600万~800万円、第二秘書でも400万~500万円ほどもらえる。私設秘書よりかなり高い。
公設秘書は身分は国家公務員だが、雇用者は議員です。議員秘書はいわば特殊技能職で、国会のルールを知らなければならないし、後援会などの世話、資金集めなど多くの仕事をこなさなくてはならない。それなのに議員が経験の浅い息子など身内を高い給料が出る公設秘書に優先的に採用することは公平さが問われる。
また議員の家族が公設秘書になって税金で生活するようになれば、自分の生活を維持するために親を当選させ続けなければならなくなる。そうなれば、国民のために政治活動をすべきところを、政治が家族の生活のためのファミリービジネスになっていく危険がある。岸田首相が将来の世襲に備えて息子に政治を学ばせたいというのであれば、公設秘書や秘書官にして給料まで税金で丸抱えさせるのではなく、せめて私設秘書にして給料は自分で払うといった節度が必要ではないか」