寒暖差から体調を崩しやすいこの時期。室内で読書でもしながら、ゆっくり過ごすのはいかがだろうか。こんな季節に気になる新刊4冊を紹介する。
『勝負の店』
久住昌之/光文社/1650円
久住氏は『孤独のグルメ』の原作者。黙々と食を楽しむ井之頭五郎は氏の分身だ。都内や地方で“当てた”飲食店を披露する。こんなガイド本は自分の居住地から読みません? 読みました。あの店! 笑いました。「俺が深夜に自宅で作るズボラ料理」と褒めています。愛ですね。各所で身バレするのも愉快。コロナ禍で地方出張のないのが無念。いつかを夢見て永久保存版にしよっと。
『いけないII』
道尾秀介/文藝春秋/1760円
『いけない』の第2弾。ホラー風味が増した今回は失踪した姉の謎を追う女子高生の運命、引きこもりの伯父が作った首なし人形で同級生を脅かそうとした小学生の想定外、息子を殺したと自首した父親が本当に隠したかったこと、これらを繋ぐ終章の4話で構成。真相に見えたものにさらなる真相があるという二段構えで、著者の企みに気づくのはミステリー読みの上級者かも。
『海とジイ』
藤岡陽子/小学館文庫/638円
東京と瀬戸内海を結ぶ3編。著者の手書き地図によれば香川県の高見島と佐柳島(猫の島)とか。小4の不登校児が曾祖父と約束を交わす「海神」、突然失踪した月島先生を48才の「私」が探しに行く「夕凪」、靱帯を痛めた駅伝選手の澪二が祖父の人生に耳を傾ける「波光」。都会の澱を洗う空と海の明度がたまらない。澄んだ余韻は特筆もの。各場面で熱いものがこみあげる。
『逃亡小説集』
吉田修一/角川文庫/770円
堪えていた感情が決壊する時って確かにある。ほぼ取り返しのつかないことになるけれど。生活保護を申請した帰途、「母ちゃん」を後部座席に乗せて警察車輌とカーチェイスを繰り広げる無職の秀明、今世紀の『緋文字』のような潤也と奈々の純愛、芸能界に材を採る1編や、日本郵便の孫請け会社ドライバーの我慢の限界。4編に流れる哀切な叫びはとても他人事とは思えない。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年10月27日号