10月15日に行なわれた山口県民葬で安倍晋三・元首相の一連の追悼セレモニーが終わった。祖父の安倍寛・元代議士、父の安倍晋太郎・元外相、そして安倍氏と戦後政治に大きな足跡を刻んできた安倍家だが、安倍氏に子供はなく、後継者は決まっていない。
来年4月には安倍氏の死で空席となった衆院山口4区の補欠選挙が行なわれる。昭恵夫人が固辞していることから、自民党県議などが後継出馬に意欲を見せている。
このまま安倍家は後継者を立てないのだろうか。だが、身内から後継者を出すことを諦めていない人物がいる。“安倍家のゴッドマザー”と呼ばれる洋子夫人だ。
「私は孫を立てます」。洋子夫人が安倍氏のお通夜(7月)の席で弔問に訪れた安倍派議員にそう語ったことが派内に伝わっている。
安倍家の地盤が消滅
安倍氏の生い立ちを描いた『安倍晋三 沈黙の仮面』の著者で安倍家を長年取材してきた政治ジャーナリスト・野上忠興氏は洋子夫人の思いをこう読み解く。
「洋子さんは若い頃から父・岸信介元首相の選挙応援に立ち、安倍晋太郎氏に嫁いでからは多忙な夫の代わりに選挙を仕切ってきた。実家の岸家と婚家の安倍家の政治的血脈を絶やさないことを最大の使命だと考えてきた人物です。
だから晋太郎氏が亡くなると地盤の下関を中心とする4区を次男の晋三氏に継がせ、次は岸家に養子に出した三男の信夫氏を説得して政界に出し、岸家の本拠地の田布施町がある山口2区から当選させて岸家を復興させた。晋三氏の後継者に『孫を立てる』という洋子さんの言葉は、夫と父の政治的血脈をここで途絶えさせるわけにはいかないという執念を感じさせる」
洋子夫人の孫は4人。長男の寛信氏に一男一女、三男の岸信夫氏に二男がある。
「洋子さんは以前から寛信氏の長男を安倍氏の後継者にしたがっていたが、本人が政治家になることを固辞したため、最近では岸信夫氏の長男で防衛大臣秘書官を務めた信千世氏に、ゆくゆくは安倍氏の跡をという考えに傾いていたようです。ところが、信夫氏の体調悪化が表面化し、そこに晋三氏の急死が重なって岸家と安倍家で同時に跡目問題が生じた。信千世氏が父の地盤を継ぐことになれば、安倍家の跡目がいない」(野上氏)