肌寒い日が増え、秋の深まりを感じられるこの頃。温かい飲み物でも飲みながら、読書を楽しんでみてはいかがでしょうか? おすすめの新刊4冊を紹介します。
『人生最大の失敗』/野原広子/オーバーラップ/1210円
正気では結婚できない、正気じゃないと結婚は続かない。そんな意味の女性作家の文章を読み、名言だなあと唸ったことがある。本書の主人公は幸せの絶頂で結婚し、育児で髪振り乱していた頃に夫が「オレの人生の最大の失敗は結婚だ」と話しているのを漏れ聞いてしまう。お金を貯め、娘の独立を機に離婚。「勝った」と思ったけれど……。結婚ってほんと永遠の課題だなと思う。
『小説家の一日』/井上荒野/文藝春秋/1980円
妊娠した女性と既婚男性の駆け引き(最後の段落の主語にご注目を)、母視点で書いた『あちらにいる鬼』の余話など10編。娘の不倫妊娠から母の秘めた過去が呼び戻される「名前」が特に鮮烈。表題作は八ヶ岳に本拠地を移した夫婦の一日を描くもの。短編を書きあぐねてマッサージに行き、書き出しを思いついて帰途につく。なにげない一日から果実をもぐ作家の一瞬が美しい。
『さよならの儀式』/宮部みゆき/河出文庫/858円
ミステリー、時代小説、SF。何を書いても面白いなんて、著者の才能はやはり破格だ。人が生育環境にのみ影響される近未来に娘が実母に会いに行く「母の法律」、防犯カメラと戦う老人の「戦闘員」、45才のわたしが15才のワタシに出会っておばさん扱いされる「わたしとワタシ」など。プレゼントしたルンバをお父上が可愛がる様子を見て発案したという表題作に泣かされる。
『恋文横丁 八祥亭』/立川談四楼/小学館文庫/616円
戦後、英語の恋文を代筆してほしい女性達で賑わった渋谷の恋文横丁。その碑がある一角に暖簾を出す小料理屋八祥亭には、今日も様々な事件やもめ事が持ち込まれる。急に姿を消した松濤の資産家老人、八祥亭に魚を卸す魚定で働くベトナム人青年と居所知れずの姉、町中華の名店を閉めると決めた店主が落ちた罠など5編。大人のコイバナでしめるのもお後がよろしいようで。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年11月3日号