ライフ

【新刊】充実した短編を読む喜びにひたる 井上荒野『小説家の一日』など4冊

 肌寒い日が増え、秋の深まりを感じられるこの頃。温かい飲み物でも飲みながら、読書を楽しんでみてはいかがでしょうか? おすすめの新刊4冊を紹介します。

2人(夫婦)でいる孤独は1人の孤独よりミジメ。離婚した48歳エリコの希望を描くコミックエッセイ

2人(夫婦)でいる孤独は1人の孤独よりミジメ。離婚した48歳エリコの希望を描くコミックエッセイ

『人生最大の失敗』/野原広子/オーバーラップ/1210円
 正気では結婚できない、正気じゃないと結婚は続かない。そんな意味の女性作家の文章を読み、名言だなあと唸ったことがある。本書の主人公は幸せの絶頂で結婚し、育児で髪振り乱していた頃に夫が「オレの人生の最大の失敗は結婚だ」と話しているのを漏れ聞いてしまう。お金を貯め、娘の独立を機に離婚。「勝った」と思ったけれど……。結婚ってほんと永遠の課題だなと思う。

熟年女性作家と30代男の一夜など、充実した短編を読む喜びにひたる

熟年女性作家と30代男の一夜など、充実した短編を読む喜びにひたる

『小説家の一日』/井上荒野/文藝春秋/1980円
 妊娠した女性と既婚男性の駆け引き(最後の段落の主語にご注目を)、母視点で書いた『あちらにいる鬼』の余話など10編。娘の不倫妊娠から母の秘めた過去が呼び戻される「名前」が特に鮮烈。表題作は八ヶ岳に本拠地を移した夫婦の一日を描くもの。短編を書きあぐねてマッサージに行き、書き出しを思いついて帰途につく。なにげない一日から果実をもぐ作家の一瞬が美しい。

著者が本腰を入れて取り組んだ、面白くて切ない初のSF短編集

著者が本腰を入れて取り組んだ、面白くて切ない初のSF短編集

『さよならの儀式』/宮部みゆき/河出文庫/858円
 ミステリー、時代小説、SF。何を書いても面白いなんて、著者の才能はやはり破格だ。人が生育環境にのみ影響される近未来に娘が実母に会いに行く「母の法律」、防犯カメラと戦う老人の「戦闘員」、45才のわたしが15才のワタシに出会っておばさん扱いされる「わたしとワタシ」など。プレゼントしたルンバをお父上が可愛がる様子を見て発案したという表題作に泣かされる。

謎解き役は著者と同業の落語家、山遊亭八祥。しかし八祥には意外な“正業”がありまして

謎解き役は著者と同業の落語家、山遊亭八祥。しかし八祥には意外な“正業”がありまして

『恋文横丁 八祥亭』/立川談四楼/小学館文庫/616円
 戦後、英語の恋文を代筆してほしい女性達で賑わった渋谷の恋文横丁。その碑がある一角に暖簾を出す小料理屋八祥亭には、今日も様々な事件やもめ事が持ち込まれる。急に姿を消した松濤の資産家老人、八祥亭に魚を卸す魚定で働くベトナム人青年と居所知れずの姉、町中華の名店を閉めると決めた店主が落ちた罠など5編。大人のコイバナでしめるのもお後がよろしいようで。

文/温水ゆかり

※女性セブン2022年11月3日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン