餅は餅屋、弓矢の道は武士が知る、舟は船頭に任せよ──。その道のプロこそが最も知識と経験が豊富であるのは、病気も同様だ。「医師」と「患者」、両方の立場を経験したからこそ話せるがんとの向き合い方。がんを経験した5人の医師に「私の治療方針」を聞いた。【全3回の第2回、第1回から読む】
あえて「仲のいい医師」には頼らない
《がん治療に強い病院ランキング》《名医の条件》など、テレビや雑誌には「いかにしていい医師を探すべきか」という特集が目白押しだ。
多くの病気を治療し、豊富な人脈を持つ彼ら医師が、自分自身のために医師や病院を選ぶとき、どんな基準を持つのか。東京女子医科大学放射線腫瘍科教授で、乳がんが専門の唐澤久美子さんが条件にしたのは、意外にも「あえて仲のいい医師には依頼しない」ことだった。
「確かに私は乳がんの専門医ですから、友人の中にいわゆる“名医”といわれる有名な医師が大勢います。しかし、仲がいい医師に依頼すると、万が一何かあったときに、お互いに気まずい思いをしてしまう。ですから信頼できる恩師に相談して、知ってはいるが友人でない“名医”を選びました」(唐澤さん)
胃の内視鏡手術を受けた東京医療保健大学副学長の小西敏郎さんは、4年目の研修医にすべてを委ねたと話す。
「15年前はまだ内視鏡を経験した医師が少なく、当時入院していた病院で治療実績が最も多かったのが、その医師でした。『研修医で大丈夫ですか』と心配する人もいたけれど、私は年齢や肩書よりも、実績や症例数を信用します。よくほかの病院に手術の見学に行っていたような勉強熱心な医師だったので、全面的にお任せしました」(小西さん)
医学的な知識や“横のつながり”がない患者が、唐澤さんや小西さんのように信頼できる医師に巡り合うためにできることはあるのか。小西さんはこう助言する。
「治療を受ける前に、いろいろな医師の意見を聞くことが重要だと思います。特にがんは治療内容が病院によって異なることがあるので、疑問に思ったら医師や病院を選ぶ前に、セカンドオピニオンも受けるといい。
ただし、いったん医師と病院を決めたら、あとは全面的に任せてください。医師と患者も人間同士。大切なのは、信頼関係です」
小西さんが重視した治療数や手術件数は、ホームページに掲載している病院も多い。診療を受ける前に確認するのもひとつの手だ。
「主治医以外のスタッフとの相性も重要です。治療中、副作用によるひどい下痢でつらいときに、病状を理解できない若い医師がいて苦しみました。看護師に職業を聞かれて医師だと答えると、『その年齢で、まだ仕事をされているんですか』と心ない一言を言われたこともあります。治療中に接するのは主治医だけではありません」(唐澤さん)
病院やスタッフの雰囲気は、実際に通院するまで判断することが難しいが、インターネットの口コミをのぞいてみたり、地域の病院であれば、近隣の評判から推し量ることができる。ぜひ積極的に情報を集めたい。
長期にわたる治療において、医師やスタッフの質に加え、家から病院までの距離も重視すべき項目の1つだ。3人の子供を育てながら高知県の病院に勤務していた緩和ケア医の田所園子さん(53才)は、家族と離れずに治療できる病院を探した。