長く続いた猛暑が落ち着き、ようやく行楽シーズンを迎えた。きのこ採りや紅葉狩りで山に行く人も多いはずだが、猛獣による被害も増える時期だ。近年は特に、住宅街でクマの出没が相次ぐ。9月に入ってからは北海道札幌市や長野県上田市、広島県広島市などで次々とクマ出没の知らせが入る。どうしてなのか。NPO法人日本ツキノワグマ研究所理事長の米田一彦さんが説明する。
「クマによる事故は、6月と10月にもっとも大きなピークを迎えます。夏は人が山に入って遭遇するケースが多いが、10月はクマの方が人里に出てきて襲うケースが増える。春はメスや子グマとの遭遇が多いが、秋は大型のオスが主で、特に死亡事故につながりやすいのです」(米田さん・以下同)
秋のクマが危険な理由は、まだある。子グマは2月に生まれ、5月いっぱいまで充分には動けないので、そのときに遭遇すると母グマは子供を守るか、逃げるため襲ってこないことが多い。しかし、6月になると子グマは木に登れるようになるので、母グマは逃げずに人に反撃するようになるという。
「さらに10月になると、子グマの“野生化訓練”が始まります。母グマは子グマを自立させるため攻撃的になり、子グマに人を襲うようけしかける。その時期は非常に危険で、わずか体長50cmの子グマだと甘く見ていたら、飛び上がってきて、爪で顔をえぐられた例もある。子グマだからといって油断できないのが、秋なのです」
鋭い音のするクマよけの鈴は有効だというが、それでもクマとばったり遭遇してしまったらどうすればいいのか。
「クマはヘビを恐れて足元を見ながら歩き、こちらに気づかないこともある。クマと10mくらい距離があれば“ほい”と声をかける。すると、クマはびっくりして身を翻して去っていく。しかし、2mの距離でそれをやると、襲われてしまいます」
襲われそうになったら「死んだふりをしろ」「ナタで戦え」などと聞くが、何が正解なのだろう。
「まずは致命傷になりやすい頭、顔と首を腕で守って伏せるのがベター。クマが相手を窒息させようと頭を掴み鼻を噛もうとするとき、爪が首に入る。そのときに頸動脈をやられると死に直結します。
女性の7割は本能的に顔を守ろうとして伏せており、多くが命は助かっています。ケースバイケースですが、ナタがあっても戦うのはやめた方がいい。動くと攻撃される。住宅街であれば電柱や建物の陰に身を隠しましょう」