アワビ、サザエ、カニ、ナマコ──高級食材として知られる海産物が、密漁によって暴力団の資金源となっていることはあまり知られていない。密漁は暴力団の主要な“シノギ”のひとつとなっており、ヤクザたちは地元の漁師や漁業協働同組合関係者と絡みながら、日夜闇夜に紛れ海に潜り続けている。
そんな「密漁」をテーマに描かれたマンガ『ヒソカニアサレ』(小学館)の単行本第2巻が、10月19日に発売された。田舎漁師の子である主人公が暴力団によるアワビの密漁被害を目の当たりにし、自分も密漁に手を染める決断をするという手に汗握る展開が魅力で、ノンフィクションライターの鈴木智彦氏と直木賞作家の佐藤究氏が帯コメントを寄せるなど、第1巻発売より話題を呼んできた。
アングラな世界観をリアルに描くこのマンガの原作者・古町さんは、なんと22歳。なぜ若くして「密漁」をテーマに選んだのか、作品を通じて伝えたいメッセージは何か。その思いをインタビューした。
──なぜ「密漁」という題材を選ばれたのでしょうか。
最初に描こうと思っていた題材(犯罪)は「密漁」ではなく「密猟」だったのですが、担当編集者さんが「漁」だと勘違いして参考文献を用意してくださったのが始まりでした(笑)。そこで読んだ鈴木智彦さんの著書『サカナとヤクザ』(小学館)がとても興味深くて、漫画のテーマに据えようと選びました。鈴木さんには実際にお会いし取材もさせていただきました。
元々は「主人公の善悪の価値観が変化するマンガ」を描きたくて、一般社会で正しく生きる主人公が自らでコントロールできない出来事をきっかけに悪に染まる漫画が描きたかったんです。そこで一般的にわかりやすい悪といえば「犯罪」だと思い、アングラな世界を漫画で描こうと考えました。
──主人公の漁師の子・磯貝海斗は第一話で、暴力団が密漁を繰り返していることを知った絶望の中、「密漁には密漁で返す」という決断を下します。そこにはどういう意図があるのでしょうか。
海保(海上保安庁)や警察が密漁者を取り締ることができていれば問題は簡単に解決するんですが、両者は改正前の法律では簡単には密漁者を検挙できず、歯痒い思いをしていたという事実を知りました。ただ被害者(漁師)の立場から見ると、たとえ司法警察職員(海保は特別司法警察職員、警察は一般司法警察職員)だとしても、手をこまねいている彼らを素直に味方だと受け入れることができない。
そんな当時の複雑な現状とその事に対する辛さを表現したかったのと、やはり「主人公が悪に手を染める」展開を描きたかったので、ダイナミックに密漁に手を出させました。