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漫画『トラとミケ』 1コマ1コマあたたかい猫たちがもたらす「人生の特効薬」

加藤ジャンプさんが

加藤ジャンプさんが『トラとミケ』の魅力を綴る(単行本4巻より。急死した神谷君のお墓の前で、中村君は自分が実は余命わずかであることを告白する)

 女性セブンで月イチ連載している漫画『トラとミケ』の第4巻が発売された。トラとミケが営む“土手煮屋”に集うお客たちの人生模様を描いたこの作品について、文筆家・コの字酒場探検家の加藤ジャンプさんが綴る。

 * * *
“にんげん”の物語なのである。

 猫の姉妹・トラとミケが営む、名古屋の老舗どて煮屋を舞台にした人情漫画『トラとミケ』。登場人物のほとんどは、いわゆる第二の人生をおくる世代だが、すべて見た目は猫だ。人でないものを人に見立てて描くのが擬人化なら、この漫画はいわば擬猫化されたキャラたちがおくる日常を描いている。最新刊の4巻では、主人公の友人が直面する病との日々と母と二人暮らしの少女の心の成長という、二つのエピソードを中心に展開する。

 どて煮屋「トラとミケ」の店主の一人、トラの高校時代の同級生が急死する。葬儀をきっかけに高校時代の友人が地元に集まる。そのうちの一人(山㟢努的ダンディーで八頭身だが、もちろん顔は猫)、東京で暮らしていた元検事の中村は、余命宣告を受け、仲間たちの多くが暮らす名古屋に帰ってくる。自らの死と向き合う中村。中村を囲む旧友たち。もしも、この物語を人間が演じていたら、口さがない人は、お涙チョーダイなどと言うかもしれない。でも猫たちが繰り広げる物語は、不思議なくらい素直にうけとめることができる。気づけば、泣いている。

 そして、猫たちが、愛おしく可愛いので湿っぽくなり過ぎない。湿っぽくないどころか、一コマ一コマ、ぜんぶあたたかくて、大切に心にしまっておきたくなる。くわえて、どて煮の旨そうなこと! コマから良い匂いが立ち上ってくるようだ。

 物語は決して古き良き時代を礼賛したりしない。リアルで、身の回りでおきていたら目を逸らしてしまいそうな出来事もおこる。そこが良い。楽しいことばかりでない日常のなかで、優しさに甘えてばかりいるキャラクターもいて、「こいつ許せん」と思ったりするが、『トラとミケ』に出てくる猫たちはあきらめない。優しく諭し、良き方向へみちびこうとする。そんな営みが心にしみる。

 たとえば日々の暮らしのなか、頭に血がのぼってしまいそうなとき、この漫画を思い出したらいい。身内に言われたらムカっとしてしまう人生のアドバイスも、他人に言われると抵抗なく聞ける、ということがある。猫たちが見せるこの物語には、そんな人生の特効薬的なところがある。

 些細なできごとなんて、この世界にはない。“にんげん”の人生でおこるすべては、たいせつな何かなのだ。そういうことを『トラとミケ』は静かにうったえかけてくる。にわか雨のとき、なぜかカバンのなかに入っていた折り畳み傘みたいに、ひかえめに、そばにいてくれる、あたたかい物語だ。

シリーズ最高傑作の呼び声が高い『トラとミケ』4巻

シリーズ最高傑作の呼び声が高い『トラとミケ』4巻

【プロフィール】
加藤ジャンプ(かとう・じゃんぷ)/文筆家・コの字酒場探検家。著書に『コの字酒場はワンダーランド』など。原作担当のドラマ『今夜はコの字で』は今年シーズン2が放送された。

※女性セブン2022年11月10・17日号

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