10月7日、東京・丸の内にある日本外国特派員協会で、合同結婚式の末に生まれた宗教2世・小川さゆりさん(仮名)はその過酷な生い立ちを訴えていた。そのさなか旧統一教会(世界平和統一家庭連合)から届いた「会見中止」を要求するFAX用紙には、小川さんが20歳の時に決別した、現役信者である両親の署名が入っていた──。この会見によって大きな注目を浴びた小川さんと、教団を追及し続けてきたジャーナリスト・鈴木エイト氏の対談が実現。2人が考える「2世信者の苦しみ」、そして問題解決への道とは。【前後編の前編】
* * *
鈴木:小川さんが日本外国特派員協会で行なった記者会見の最中、隣でサポートしていた旦那さんが「旧統一教会の方からメッセージが届きました」と、小川さんの両親の署名が入った1枚のFAX用紙を手に会見を中断しました。「彼女は精神に異常をきたしており、安倍(晋三)元首相の銃撃事件以降、その症状がひどくなって、多くの嘘を言ってしまうようになっています。そのため、この会見をすぐ中止するように」という統一教会からのメッセージが読み上げられ、会場に緊張が走った。後に教団は「彼女を心配した親心です」としたわけですが、あの時はどんな心境でしたか。
小川:私自身は両親も教会に利用されている被害者だと思っています。その両親を使って心ない文章を送ってきたことには動揺もありましたが、教会が私のことを明確に攻撃してきていることも理解しました。ショックと同時に、怒りが湧いた。
鈴木:そんなことがあったにもかかわらず、会見では、統一教会の何が問題で、彼らがどれほど悪質な人権侵害を繰り返してきたかを、英文や図解を用いて非常に高いクオリティで説明されました。会見中に教団から脅し同然のメッセージが届いていたことを知らされても、小川さんは毅然として「自分と(教団の)どちらが悪なのか、これを見てくださっている多くの方は分かってくれると信じている」と言い切った。教団には相当なダメージになったはずです。
小川:自分はもともと信者で教会を信じていた時代もありましたが、私が苦しみ続けた病気のことまで言われて、かえって闘わないといけないという決意が湧きました。
鈴木:ただ、小川さんが両親からのFAXの内容を知って涙したかのような切り取り方は間違いではないですか? あの涙は、出会ってからずっと守ってくれている旦那さんへの感謝の思いからのように見えました。
小川:自分が泣いた部分はおっしゃる通りですね。会見の準備も一人では絶対に無理で、夫が冗談抜きに100時間以上も勉強して助けてくれました。
鈴木:こういった問題はシンボル的な存在が物事を押し進めることが多いですが、小川さんはまさにそんな存在になりつつある。2世問題をサポートしてきた立場からは小川さんのような象徴的な存在がいてくれるのは大変ありがたいですが、負担が大きくないですか。
小川:顔を出すことにはリスクもありますが、自分はそれができる立場にあります。一番の原動力は4月に子供が生まれたこと。幼い頃の自分と重ねてしまい、子供に宗教被害を残したくないという一心で行動しています。