3期目続投も異例なら対抗勢力の「一斉粛清」も異例。習近平独裁体制の中国でいったい何が起きているのか──。5年に1度開かれる中国共産党の第20回党大会。その閉幕式で “強制退場”事件が起きた。胡錦濤・前総書記(79)が新常務委員の人事に強い不満を抱き、公開の場で抗議しようとしたところ、強制的に退場をさせられたのだという。ジャーナリストの峯村健司氏がその内幕をレポートする。(文中敬称略)【前後編の後編。前編から読む】
初めて異議を唱えた
では具体的に、どの人事に対して胡錦濤は反旗を翻したのだろうか。時計の針を今夏に戻す。
北京から東へ約280キロ離れた河北省の避暑地、北戴河に今年8月上旬、現指導部に加え胡ら引退幹部たちが集まった。通称、「北戴河会議」と呼ばれる会合に参加するためだ。党の重要な政策や人事について議論が交わされる。
特に党大会が開かれる年の北戴河会議は、新指導部の人事が話し合われるため、動向を探ることは極めて重要だ。ただ、会議の内容や期間はおろか、開かれたことすら公表されない秘密会合だ。
会合ではどのような人事案が話し合われたのだろうか。元共産党高官を親族に持つ党関係者を含む複数の証言によると、以下のことが決まった。
【1】習近平の3期目続投
【2】常務委員の人数は現行の7人
【3】李克強の退任
具体的な人事案については、習近平(69)が高官らから意見を聞きながら作成していくことも確認された。この際、胡が口を開いた。
「最高指導部に共青団系の人物を少なくとも一人は入れなくてはならない」
筆者が知る限り、胡は引退後初めて、習に異議を唱えた。
日本メディアでは、「習近平派vs共青団派」という対立構造で解説される傾向がある。この見方は必ずしも正しいとは言えない。
胡は2013年3月までに、党総書記と国家主席に加え、軍トップである中央軍事委員会主席の3つすべての重要なポストから退き、習に譲った。
三権のうち最も重要なのは、中央軍事委主席のポストだ。前任の江沢民は2002年に総書記を退いてから約2年間、軍事委主席に留任した。引退後も「党の重要事項は江沢民氏に報告する」という内部規定をつくり、人事や重要政策に決定権を持ち、胡錦濤政権で影響力を持ち続けた。
一方、胡は自ら「完全引退」をする代わりに、党内人事のルールを厳格化し、「院政」を敷いてきた江らの影響力を排除した。これにより、胡からすべてのポストを譲り受けた習は、権力基盤を急速に固めることができた。
いわば胡は、習にとって恩人と言える存在だった。そんな習の「後ろ盾」だった胡が異例の人事介入をしたのだ。