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山下裕二氏が語る 2023年大河『どうする家康』ゆかりの名刹を描いた浮世絵の魅力

『芝増上寺黒本尊開帳之図』(部分)増上寺蔵

『芝増上寺黒本尊開帳之図』(部分)増上寺蔵

 日本が世界に誇る芸術、「浮世絵」。美人画や役者絵が花形に思われるが、名所が描かれた風景画も根強い人気を誇ったと、美術史家で「日本美術応援団」団長の山下裕二氏は語る。

「かつて、浮世絵は風景の楽しみを伝えるメディアでした。現代の写真のように、遠く離れた地方からも風景画を通じて江戸東京の風景に触れることができた。そのため、風景画には名所が多く描かれたのです。

 そのひとつが東京・芝の風景です。この地には徳川家の菩提寺である増上寺があり、鮮やかな朱色に染められた三解脱門(三門)は江戸時代から庶民の人気が絶大。年に数回、登楼が許される日には屋台も出て、増上寺の界隈は大変に賑わいました」(山下氏、以下同)

 当時の三門の活気を伝える1枚が二代歌川国輝により明治4~5(1871~72)年に描かれた、『芝増上寺黒本尊開帳之図』。秘仏の黒本尊阿弥陀如来は徳川家康の念持仏として出陣の際に連勝を祈願し、共に戦場へ赴いたと伝えられる。以来、「勝運の仏様」として現在に至るまで信仰を集めている。

「黒本尊御開帳の日には三門の登楼も許され、この絵のように多くの人々が押し寄せました。三門をよく見ると箱棟(屋根頂部の大型の棟)に徳川将軍家の家紋でもある『葵御紋』が並んでいます。文政11(1828)年の修復で箱棟に葵の御紋が飾られ、江戸後期や明治初期の浮世絵に描かれた三門には紋所も付けられているのです。明治以後いつからか姿を消しましたが、かつての三門の姿を知る史料としても価値があります」

 増上寺の付近には浮世絵の版元が多くあり、当時の風俗や人々の活き活きとした生活を切り取るメディアとして制作、販売されていた。「江戸絵」とも呼ばれて江戸の土産として重宝され、明治時代に入ると外国人たちも日本の土産として買い求めたという。

『東京二十景 芝増上寺』個人蔵

『東京二十景 芝増上寺』個人蔵

「江戸時代の浮世絵師、浮世絵伝統の技と美意識を引き継ぐ新潮流『新版画』の作家たちは、観光名所である増上寺の三門付近を盛んに描きました。とりわけ、三門の朱色と雪の白さを対比させた版画は人気が高く、新版画の風景画の名手・川瀬巴水(かわせはすい)も大正14(1925)年の『東京二十景 芝増上寺』で描いています。巴水はこの作品を手がける2年前に起きた関東大震災で被災し、家族と共に増上寺の境内に身を寄せていました。天災を免れ、江戸時代から変わらぬ姿で佇む三門の姿は心強く映ったことでしょう。この作品は人々の心に響き、多くのファンが生まれました。

 浮世絵の風景画は近年になってブームが再燃し、川瀬巴水の展覧会も非常に盛況。巴水といえばアップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏も熱烈なファンとして知られていますね。巴水の作品を目当てに日本の古美術商を訪れては、たびたび買い求めていました」

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