【著者インタビュー】御木本あかり氏/『やっかいな食卓』/小学館/1650円
ご本人は一見して明るくお茶目でパワフルな方だが、69歳は紛れもない高齢者だ。
「そう。私も帯を見て気づいたんです。69歳で新人は売りになるんだって(笑)」
このほど初小説『やっかいな食卓』でデビューした御木本あかり氏。NHKを退局後、外交官の妻として欧州や南米など計9か国で暮らし、料理の腕を磨いた経験が、この食を巡る家族小説にも生かされたという。
物語は著者同様、豊富な海外赴任経験をもつ元外交官夫人〈高畠凛子〉72歳と、次男の嫁でフードスタイリストの〈緑川ユキ〉38歳の視点で交互に進み、亡夫の遺言に端を発した同居問題に、画家で生涯独身だった長男〈駆〉の遺児発覚と、成城の駅近に建つ高畠家は常に問題山積。そんな揺れに揺れる一家を繋ぎとめるのも、日々の食事だった。
「私、自分で言っちゃうのもなんですが、料理だけは得意なんですよ。あれは息子が2歳だから29歳の時か。夫が今でいうミャンマーに転勤になって、その後、世界各国を渡り歩くうち、いろんなお料理を食べたり作ったりしてきましたから。
これを言うと笑われるんですけど、ポンペイの遺跡を訪れた時、『ここ、知っている』と既視感があって。そうか、前世はイタリア人だったのかって。それでローマに残って大学に入り、本も出したんですけど、売れなかった。その後、私なりにジタバタし、最後の挑戦と小説教室に通い始め、数年がかりで形になったのが本書です。あと10年、いや、20年は書く予定です(笑)」
本作には凛子やユキの他、イタリア南部バーリ出身の夫〈ジョルジオ〉と中野でレストランを営む凛子の娘〈涼〉。駆と山梨在住の画家〈鬼塚杏子〉の間に生まれ、駆を交通事故、杏子を癌で失った小6の娘〈叶〉など様々な年代の女性が登場。
「私は年齢こそ凛子に近いですが、例えば毎日仕事や家事で手一杯なユキが40手前で焦る思いは、かつての私なんです。同時に孫と食事をして何が悪いという凛子の本音も、7年前から息子夫婦と同居している自分の愚痴に近い形で書けますし。嫁も姑も娘も母も、この歳になると全部、私の中にいるんです」
20年前に夫を病で失い、次男〈建〉や涼の結婚後、同居する長男まで亡くした凛子は、今では自宅や自治会で料理や花を教え、塞ぎこむ暇もないほど忙しい。
そんなある日、〈家とママを守って欲しい〉と父親に託されたという建が同居を切り出し、当初は反対していたユキや凛子も経済面などから渋々了承。キッチンやリビングも別にし、干渉しない条件で同居を始めた。
ユキは仕事で凝った料理は作っても、家ではつい手を抜きがち。夫の建は不登校気味な9歳の長男〈旬〉のためにも祖母がいた方が安心だと言うが、ある時、惣菜類を買い込み、大急ぎで帰宅すると、旬は既に何やら食べた様子。勉強机の上に微かなパン粉のカスを発見し、お手製の唐揚げや肉じゃがコロッケを味見と称して食べさせていた姑に抗議し、引導を渡すのだ。