差別のない世界を目指そうというかけ声は立派だが、現実は厳しい。何十年か先の未来にはそういった世の中になっているかもしれないが、今日、明日を生きていく自分たちにとっては、厳然と存在する違いを受け入れざるを得ない。ましてやそれが、何か強い信念のもとではなく、人よりかっこよく、強く見えるようにしたいからという若いときの見栄が動機だとしたら、差別反対と声高に叫ぶのも憚られるというものだ。ライターの森鷹久氏が、2010年頃のオラオラ系ブームにのって和彫りの入れ墨をいれた人たちのその後についてレポートする。
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「こんなに早く後悔することになるとは思いませんでした…。何をするにも困りますし……」
埼玉県在住で、都内の不動産店に勤務する町田稜さん(仮名・20代)は、ややふっくらとしたスーツ姿に穏やかそうな顔つきで、一見すると、どこにでもいそうなサラリーマンだ。しかし、町田さんには悩みがある。それは、17歳の時に友人や当日交際していた彼女に勧められ、背中一面、そして右肩から手首に至るまで、純日本式の「入れ墨」を入れてしまったことだ。
「当時は不良っぽいのがブームで”オラオラ系”と言われていました。体を鍛えて、日焼けサロンに行って入れ墨を入れ、見た目をいかつくする。当時は高校生でしたが、髪はパンチパーマに近かったし、親からも相当反対されましたけど、金を作って(入れ墨を)入れた感じです」(町田さん)
筆者も、そんな”オラオラ系”の若者向け雑誌制作に携わった経験があるが、彼らの出立はというとパンチパーマに黒いセットアップという時代を超越したとしか思えない見た目で「昔ながらの不良が今さら流行るのか」と驚くくらい、オラオラ系ブームは全国で盛り上がりを見せていた。ちょうど、かつての暴走族だったという中年層達が、当時乗り回したバイクに再びまたがり、集団で走行する「旧車会」ブームとも相まってなのか、全国各地に似たような見た目の人たちが存在したのだ。その結果としてなのかは不明だが、未成年に入れ墨を施すような、明らかに危ない「彫り師」も登場していた。
バイトで貯めた50万円を突っ込んだ
町田さんの入れ墨代だが、なにも窃盗や特殊詐欺で金を儲けたわけではない。学校をサボって土木関係のバイトをして貯めた金、およそ50万円を全て入れ墨代に突っ込んだのだと苦笑するが、当初は「最高にイケていると思った」と振り返る。
「今ネットではやっている格闘技”ブレイキングダウン”がありますが、あれの走りというか、不良が集まって地下格闘技大会が全国で開催されていました。みんなイケイケで、少し昔っぽい不良の格好というか、硬派な感じに憧れていました。不良ブームですよ」(町田さん)
その後、単位制高校から専門学校に進学し、入れ墨のことは隠し通して無事卒業したものの、大手建設会社子会社に就職した後、問題は起きた。