ソウルの繁華街・梨泰院で起きた前代未聞の大惨事。事故当日の10月29日から半月近く経った現在も、現地からはこんな嘆き悲しむ声が聞こえてくる。
「韓国は事故以来、国をあげて静かに喪に服しています。事故はどこでも起こる可能性があるものですが、今回はあまりにも規模が大きすぎる」
「セウォル号の沈没事故(2014年)が起きたときと同等か、それ以上にショックを受けている人が多い。犠牲となったのは若い人たち。亡くなったお子さんたちの親御さんの心情を思うと心が痛い」
法医学分野の博士号を持つ形成外科医の高田女里さんはこの悲劇は決して“対岸の火事”ではないと指摘する。
「特に都心で直下型地震が起きた場合、徒歩で帰宅しようとする人が道路に殺到し、群衆事故が起きる可能性があります。丸の内や新宿、渋谷といったターミナル駅周辺はリスクが高いとされています」(高田さん)
呼吸困難から10秒で失神
今回の事故における死亡者は156人。その原因のほとんどは「圧死」だった。
「胸腹部に強い力がかかった結果、肋骨や胸骨などで覆われた『胸郭』を動かせなくなり、呼吸ができなくなって起こる窒息死のことです。胸部を強く圧迫されることで、全身の血液が心臓に戻れなくなり、心停止を起こすこともあります」(高田さん)
圧死によって命を落としやすいのは圧倒的に女性が多い。実際、亡くなった156人のうち101人、つまり3分の2が女性だった。
「女性は男性と比較して小柄なうえ、筋肉や肺活量も少ない傾向にある。相対的に体力がないので、大きな圧がかかった際に押しつぶされ、呼吸困難になりやすいと考えられます」(高田さん)
渋滞学の第一人者で、群衆事故に詳しい東京大学先端科学技術研究センター教授の西成活裕さんも、群衆事故では体格や力の弱い女性や子供が犠牲になりやすいと話す。
「1平方メートルあたり10人が密集した空間では、1人にかかる圧力が200〜400kgにもなる。女性や子供、高齢者は重圧に耐えきれず、呼吸ができなくなって10秒で失神するといわれています。加えて、小柄であれば鼻や口が周囲の人の体で塞がれて、空気が吸いにくくなるリスクも高いのです」(西成さん)
女性が命を落としやすいのは服装や持ち物にも理由がある。高田さんの解説。
「ヒールの高い靴やサンダルは、転倒しやすく、群衆事故に巻き込まれやすい。ひもが長いショルダーバッグやロングスカートも、人と人の間に挟まって身動きが取りづらくなるリスクが高いといえる」
※女性セブン2022年11月24日号