インターネット上の情報がすべて正しいと思い込むことや、そう考えている人のことを揶揄するネットスラング「ネットde真実」とは、2000年代はじめに匿名掲示板に書き込まれたマスコミ批判の投稿に「俺たちはネットで真実を知ることが出来る」とあったことが始まりだと言われている。最近、その揶揄されていた思考パターンが高齢者にも広がり、家族との軋轢のもととなっている。ライターの宮添優氏が、ネットde真実に支配された親の言動に振り回される子供たちに聞いた。
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久々に実家に帰ったら「親がネトウヨ(ネット右翼)になっていた」とか「家族が反ワクチン主義者になっていた」などという記事を見かけるたびに、これがいわゆる「情報化社会」の成れの果てなのか、と考えてしまうのは筆者だけではないだろう。むしろ、人間が作った新しい社会の仕組み、情報の流れについていけない人々が増えているだけ、という見方をする人もあるかもしれない。いずれにせよ、あまりにも受け取る情報が増えすぎたために、それらをどうやって選別し、自分なりに咀嚼して飲み込むかといった、一見簡単に見えることがとても困難になってしまったことは確かなようだ。
「それがお母さんとお父さんにどんな関係があるの? そう聞いても、これは国の問題だから、お父さんはわかっていないのと頑なな姿勢を崩さない。最初は単なる頑固かと思いましたけど、違う」
大阪府出身の会社員・片桐洋平さん(仮名・40代)は、この一年ほど、週末夜に母親からかかってくる長電話にうんざりしている。母親が最近よく振ってくる話題は、主にネット上で議論になっている政治問題についてだ。
「話題になっているひろゆきさん(2ちゃんねる創設者)と辺野古基地の問題では、母はひろゆきさんをかなり激烈に罵倒していましたが、そもそも母は政治問題に興味が無かったはず。内容を聞いても、誰かの受け売りとしか思えない。言葉遣いも荒くなったし、こうなった原因が私にあるとすれば、後悔しかないです」(片桐さん)
インターネットの匿名掲示板2ちゃんねる(現5ちゃんねる)創設者で、英語圏の匿名掲示板4chan管理人のひろゆき氏のTwitter投稿がきっかけで起きた、沖縄県名護市辺野古での反基地運動をめぐるネット論争は、かつての匿名掲示板ユーザーたちの性質を承知していれば、本当に議論されるべき問題だったのか、疑わしくも感じてしまう。とくに2ちゃんねるの負の側面とも言える、あおりとそれを面白がる一部ネットユーザーの悪癖を知っていれば、強く非難を続ければ続けるほど、争うやりとりが続くので彼らが楽しむだけだ。「おさわり禁止」とスルーすることが効果的であると、かつてPCから匿名掲示板を閲覧した経験があるひとなら覚えがあるだろう。ところが、そういった経験を経ていない片桐さんの両親は、SNSの片隅で起きているにすぎない論争であっても、大真面目に受け取って感情移入してしまう。