日暮れが早くなり、夜が長いと感じられるこの季節。ゆっくり読書を楽しんでみてはいかがでしょうか? オススメの新刊4冊を紹介します。
『変な絵』/雨穴/双葉社/1540円
冒頭にある絵が置かれ、心理学者がこの絵を描いた女の子は11歳のとき母親を殺害しましたと講演して聴衆は戦慄する。そこから始まる4章立て。園児の描いた絵、閉鎖されたブログにあった5枚の絵、惨殺された美術教師の絵と、絵の謎が解かれていく。しかしこれらは単体ではなく、すべて繋がっていたというのが第4章だ。目で分かるこの読み易さ、若い人に歓迎されそう。
『雲を紡ぐ』/伊吹有喜/文春文庫/847円
おどおどした性格につけ込むイジメに遭い、不登校になった高2の美緒。安心毛布だった赤いホームスパンのショールを母に捨てられ衝動的に盛岡を目指す。そこでは祖父が羊毛を染め・紡ぎ・織るホームスパンの工房を営んでいた。迷える子羊だった美緒が見習い作業を通して自分を発見していく過程が眩しい。手仕事は人を癒やす。風も光も優しい盛岡の風土にも魅せられる。
『書く力 加藤周一の名文に学ぶ』/鷲巣力/集英社新書/1210円
加藤周一氏(1919〜2008年)の文章に感服し、鷲巣氏の“書く力を分からせる力”にも驚嘆する。ちなみに元平凡社取締役の鷲巣氏の名の「力」は「つとむ」と読む。起承転結や序破急、論点は3点に絞るなどは耳学問があるものの、文章に組み込まれた対比や比喩、特に例示にみられる秩序立った論理構造は、知の森に分け入るような奥深さ。明晰は美でも。明晰文の力に開眼する。
『女人京都』/酒井順子/小学館/1760円
帯に本書に登場する主な女人の名が並ぶ。奈良時代から明治まで壮観の47人。ゆかりの地を電車やバス、徒歩(途中コロナ禍でストリートビューも利用)で訪ねるのがいい。大斎院だった選子内親王の神社の後、徒歩で「中華のサカイ本店」へ。表紙にした美人画の上村松園の足跡を訪ねる合間にはホテルオークラでフレンチトーストを。〈歴史散歩+女子の好物〉って最強タッグです。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年11月24日号