10月26日午後1時10分頃、岡山市北区大元上町の理髪店で、指定暴力団池田組のトップ・池田孝志組長が襲撃された。ヒットマンが所持していたのは催涙ガスとサバイバルナイフだった。数名のボディガードがおり、容疑者はすぐ取り押さえられ、幸い店員に巻き添え被害はなかった。ガードの組員は手を深く切ったが命に別状はなく、池田組長もまた無事だった。
池田組は2020年7月に神戸山口組から脱退し、以降独立組織として活動してきた。実行犯は地元・岡山の妹尾組若頭で、上部団体は神戸山口組から六代目山口組に戻った山健組である。出戻り組が戦果を期待されるのは、古来の合戦と同じ構図だ。同日夜には池田組長が住む岡山市内のマンション駐車場に停めていた車両も銃撃されている。これも犯人は妹尾組幹部だった。コンパクトな地方都市を地元とする、元々は同じ山口組勢である。喧嘩相手は顔見知りであり、交友関係も被っているはずだ。お互い相手の使う車種やナンバー、立ち回り先は把握しているだろう。
筆者が岡山入りしたのは事件翌日の夜だった。28日には岡山県警が暴対法に基づく使用禁止の仮命令を出し、池田組事務所や妹尾組事務所など4か所への立ち入りが出来なくなっていた。理髪店を見に行くと、すでに新しいソファーが搬入されていた。銃器を使って人間を撃った場合、動脈などを傷つけ血溜まりができたりする。「血の海」という定型文がふさわしいような現場は、タイルの目地や床下までが血を吸い込み、消毒液の強烈な刺激臭が数日消えない。今どきの抗争現場は当事者の撮った写真や動画が出回るのだが、この事件でもそれがあって、確認する限り血の海にはほど遠かった。理髪店の経営者にすれば不幸中の幸いだったに違いない。
容疑者は池田組長らが理髪店に入った直後、店の前に車を停めて店舗に侵入したという。「いけだぁー!」と叫び、ガードの組員に催涙スプレーを噴射、サバイバルナイフを振り回して暴れた。ナイフごときさほどの脅威ではないと考えるのは素人だ。刃物を振り回されると極めて危険で対応しにくい。深く刺されば簡単に死んでしまう。襲撃を防いだボディガードの奮闘は暴力団社会で絶賛された。騒ぎを聞きつけて出てきた池田組長がガードの組員を止めたと聞くが、池田組長も面目躍如である。
当日夜、池田組長の車が銃撃されたのは妹尾組がリカバーしたと推測するのが妥当だろう。襲撃は成功しなかったばかりか、仰向けに倒された動画が全国に拡散された。こんな動画が撮影できるのは池田組関係者としか考えられない。メンツを潰されれば報復せねばらない。
「素手で店に行ったならしかたない。でもナイフを持っていたのだから、事件にする気だったわけだ。ヤクザがまさかハスって(表面を斬り付けて)終わりじゃあるまい。殺すつもりだったなら、なぜ道具(拳銃)を持っていかないのか」(広域暴力団執行部)
理髪店の襲撃だけなら、山口組内部でも厳しい評価だったに違いない。