公式戦最終戦でナインから胴上げされ、大歓声のなか球場を一周してファンとの別れを惜しむ──そんな “理想の最後”を迎えられるプロ野球選手は少ない。人知れずクビを告げられ、新たな道を模索する。「戦力外」となった男たちの物語をノンフィクションライターの柳川悠二氏がレポートする。【全3回の第1回】
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「まだ第一線でやれる」
プロ野球の世界において、自らの意思で「引退」を決断できる選手はほんの一握りだ。実績があり、本人が現役を続けられると思っていても多くの場合は「戦力外」を宣告され、居場所を失う。
2022年のオフも、福岡ソフトバンクの松田宣浩(39)や巨人の山口俊(35)など、名だたる選手が自由契約となった。巨人への“再就職”が決まった松田のようなケースはまれで、扱いの難しい大物ベテランほど、現実は厳しい。
退団会見での発言によって、思わぬ炎上を経験したのが中日の平田良介(34)だ。4度にわたってセ・リーグを制した落合博満政権時の主軸で、プロ17年目の今季も7月の阪神戦では150キロを超える直球を本塁打にした。だが10月に入って“血の入れ替え”を断行する立浪和義監督に呼ばれ、引退か自由契約か選択を迫られた。コーチ就任の打診などはなかった。
「自分の中では、現役続行で気持ちは固まっていた。去年患った病気(異型狭心症)も大丈夫ですし、ケガもない。まだまだ体も動きますし、第一線でやれる。ただ、家族があるので、一度話を持ち帰らせてもらいました」
その後、球団代表との話し合いの中で、盛大な引退セレモニーが用意されないと知るや、10月4日の退団会見でその不満を爆発させた──報道ではそう伝わっている。真意は違う、と平田は言う。
「気持ちの浮き沈みがあり、辞めることも頭をよぎる中で、代表からこれ以上ないようなお見送りの道を提案されていたら、『辞めます』と口にしていたかもしれない。そう記者さんに話したら、前後をはしょられて、間違った伝わり方をしてしまった。17年間の現役生活でも特別な会見なのに、(炎上したことは)ショックでした」
波紋が広がるや平田はSNSで釈明し、さらに自身のユーチューブのチャンネルで、改めて現役続行の意志を表明した。
「SNSをやっていない僕のファンは、記者会見で時が止まっている。そうしたファンに、今、何をしているのかを伝えたかったし、記者会見で伝えたかったことを自分の言葉で説明したかった」
12球団合同トライアウトには「もう評価は終わっているはず」との理由から不参加だった。「ベテランとして若手に伝えられることがある」と平田は強調した。
海外や国内独立リーグで野球を続ける考えはなく、希望はNPBの球団のみ。年内に話がなければ潔く引退するつもりだ。
「今年から現役ドラフトも開催されるので、例年よりチーム編成が遅れる可能性がある。でも期限を決めなければ次の人生に踏み出せませんから」
(第2回に続く)
【プロフィール】
柳川悠二(やながわ・ゆうじ)/1976年、宮崎県生まれ。ノンフィクションライター。法政大学在学中からスポーツ取材を開始し、主にスポーツ総合誌、週刊誌に寄稿。2016年に『永遠のPL学園』で第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞。近著に『甲子園と令和の怪物』(小学館新書)
※週刊ポスト2022年12月2日号