公式戦最終戦でナインから胴上げされ、大歓声のなか球場を一周してファンとの別れを惜しむ──そんな “理想の最後”を迎えられるプロ野球選手は少ない。人知れずクビを告げられ、新たな道を模索する。「戦力外」となった男たちの物語をノンフィクションライターの柳川悠二氏がレポートする。【全3回の第2回。第1回から読む】
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トライアウトは“区切り”
この時期に戦力外となった選手への連絡ほど、気が引けるものはない。知らない番号からの着信は獲得を希望する球団からの連絡かと、心を躍らせる可能性があるからだ。
2017年のWBCで侍ジャパンの中継ぎを務めた福岡ソフトバンクの秋吉亮(33)に取材のアポイントを入れると、電話越しに子供たちがはしゃぐ声が聞こえてきた。
トライアウトに参加した選手の獲得を希望する球団は、5日以内に連絡する決まりがある。ちょうど連絡を入れた日が5日目だった。
「子供たちと公園で遊んでいました。“2度目”の戦力外ですから、落ち着いて過ごせています。トライアウトには、ひとつの区切りとして参加しました。持っている力を出して、話がなければ次の人生を考えます」
昨年オフに、FA権を取得していた秋吉は西川遥輝(現東北楽天)や大田泰示(現横浜DeNA)と共に北海道日本ハムを「ノンテンダー」となった。日ハム残留の余地を残しながら他球団との交渉が可能となる馴染みのない契約だが、球団から残留交渉の話はなかった。
「結局、戦力外通告と同じですよね。僕自身は結果を残せていなかったので仕方ないですが、遥輝や泰示は試合に出続けていた。要は年俸の高い選手のクビをいきなり切ると印象が悪いから、ノンテンダーとしたのではないでしょうか(笑)」
今季の開幕は独立リーグ・福井ネクサスエレファンツで迎えたものの、7月にソフトバンクと契約、NPBに返り咲いた。
だが復帰後初登板で清宮幸太郎に2ランを浴び、次の登板でも得点を許してしまう。結局、一軍登板はこの2試合のみ。在籍3カ月で再び戦力外となってしまった。
「何も話はありませんが、独立リーグで野球を続けたい。コーチ兼任でもいい。自分は教えるのが大好きで、コーチの勉強もしたい。いずれにせよ、野球に携わる仕事がしたいです。独立なら空いた時間帯に副業のような形で、野球教室やユーチューブもできますから」
381試合に登板した鉄腕はまだ錆びていない。
(第3回につづく。第1回から読む)
【プロフィール】
柳川悠二(やながわ・ゆうじ)/1976年、宮崎県生まれ。ノンフィクションライター。法政大学在学中からスポーツ取材を開始し、主にスポーツ総合誌、週刊誌に寄稿。2016年に『永遠のPL学園』で第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞。近著に『甲子園と令和の怪物』(小学館新書)
※週刊ポスト2022年12月2日号