今年のエンタメ界の快作。“発語前の正解”という超絶クイズに挑む
日に日に空気の冷たさを感じるようになってきたこの季節。暖かい部屋でじっくりと読書を楽しんでみては? おすすめの新刊4冊を紹介する。
『君のクイズ』/小川哲/朝日新聞出版/1540円
賞金1千万円がかかるクイズ王決勝戦。三島の対戦相手である本庄は最終質問で質問開始前に早押し、正解する。一語も聴かずなぜ正解できる!? ヤラセが疑われる中、しかし三島はそう断じず、本庄が正解できた筋道を探り始める。常々クイズプレーヤーと物知りは違うのではないかと思ってきたが、そんな疑問にも応えてくれる味のある着地。クイズの奥義もたっぷり楽しめる。
これをお別れの挨拶とさせてくださいと、ボールペンと音声で綴った軽井沢日記
『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』/山本文緒/新潮社/1650円
2021年4月、山本さんは膵臓がんステージIVと告知される。「うまく死ねますように」と始める余命半年日記だ。体調が乱高下する中、短編集のゲラを読み、夫の膝枕でドラマを見る。カロリー無視でアイスを食べる快感、でもパジャマをセールで買ってしまう性分。どの行為も山本さんらしく、この実感がある限り彼岸と此岸の差はない気がする。享年58。10月13日が一周忌でした。
悲しみや悔恨なしで親と子を語れる人がどれほどいるだろうか(本文より)
『BIG COMICS FRONTLINE 父を焼く』/山本おさむ、原作・宮部喜光/小学館/1287円
漫画もここまで来ました。青春でも恋でも競技でもなく、仏教用語でいえば生老病死という主題。父の飲酒や暴力が止まない家を逃げるように出て、東京で家電量販店に就職した三上。ささやかな家庭を築くが、母が糖尿病で逝き、2年後に父の無惨な孤独死を目にする。両親を放置したという苦い思い。シニア世代を置き去りにしない新レーベルの誕生。中高年はきっと泣く。
「聴く」は能動、「聞く」は受動。個が孤立する社会を支えあって生きる
『聞く技術 聞いてもらう技術』東畑開人/ちくま新書/946円
「聴く」は「聞く」より格上と思いきや、逆というのがこの本の趣旨。聞くとは相手の言葉をそれ以上でも以下でもなく、まんま受け止めること。「傷ついた」に「そっちにも問題がある」なんて返すのは聞けてない証拠だ。対話が必要な時ほど機能不全に陥る聞くという行為。聞いたり聞いてもらったり。この循環が社会や人間関係に潤いをもたらすと、臨床心理士の“技”を公開する。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年12月1日号