政治家やタレントなど著名人の受刑者も多く服役した黒羽刑務所(栃木県大田原市)。51年の歴史を持つ同刑務所は、その規模などからかつて「東洋一の刑務所」と呼ばれたが、老朽化や受刑者の減少に伴い、今年3月に閉庁された。ドラマ『六本木クラス』のロケ地ともなった同刑務所の内部に、刑務官の立ち合いのもとで潜入取材が実現。刑務所などの矯正施設での慰問ライブを続ける音楽ユニット「Paix2(ぺぺ)」とともに巡った内部の様子をレポートする。【前後編の前編】
1971年の設立時、わずか608名から始まった黒羽刑務所(栃木県)の収容人数は2006年には2226人に達した。不正を犯した国会議員だけでなく、タレントの田代まさしや清水健太郎、新興宗教「法の華」教祖として詐欺で逮捕された福永法源元代表など、いわゆる著名人の受刑者が多いのは、ここが刑期10年未満かつ犯罪傾向の進んでいない者を受け入れる刑務所だからだろう。
政策秘書の給与を不正に流用したとして、2000年に逮捕された山本譲司・元衆議院議員は著書『獄窓記』(ポプラ社)のなかで、都内の小菅拘置所から約3時間半、車に揺られて黒羽刑務所に移送されたときのことをこう回想している。
〈いずれにしても、懲罰にだけはならないように気を付けるべきでしょうね。山本さんもこれから工場に配役されることになるでしょ。収容者たちは、興味本位に近寄ってくると思いますが、あまり、同囚とは関わらないほうがいいですよ。懲罰の一番の原因は、同囚とのいさかいですからね…車内では、こんな会話が延々と続いた〉
都内から首都高速に入って西那須野塩原ICで降りると、そこから約10キロの道のりを経て約3時間半で黒羽刑務所に着く。時折、牛の鳴き声が響くのどかな田園風景を抜けると、道路を挟んでステーキハウスと監視塔が見えてくる。
「今でこそ監視カメラですが、昔は毎日、あの監視塔に職員さんが登って、人の目で所内を警戒していたそうですよ」
同行した職員よりも早く解説を始めてくれたのは、日本のすべての刑事施設で500回を超えるプリズン・コンサート(慰問ライブ)をおこなってきた音楽ユニット・Paix2(以下、ペペ)の井勝めぐみさんだ。続けて、ぺぺの北尾真奈美さんも笑顔で言う。
「メジャーデビューしてからも、全国の刑務所で歌い続けると決めたとき、最初に問い合わせをくれたのが黒羽刑務所だったんです」