「やってみなければわからない」が口癖の女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子さんだが、やってみたくないこともある。その筆頭が病気だ。オバ記者が体調に異変を感じたのは、昨年8月。下腹部が膨らみ、重度の倦怠感や尿漏れに悩まされ続けたが、約1年間放っておいた。この夏、意を決して検査を受けたところ、「卵巣がんの疑い」と告げられ、一も二もなく入院、手術。そこで見たこと、感じたこととは。【第3回。第1回から読む】
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「卵巣がんの疑い」と告知された私は、何でもいいから“希望”のかけらが欲しい。それですぐに思いついたのが、がん保険だ。
私の母方の祖母は、40才になるかならないかで、子宮がんで亡くなっている。それで私も40代後半のとき、乳房に小さなしこりを指先に感じたのをきっかけに、がん保険に入ったの。
で、「卵巣が12cmに腫れている」と診断されてすぐに保険会社に電話をしたら、「境界悪性」という言葉があることを知ったの。
医学的には、「境界悪性」は「良性」と「悪性」の間に位置づけられる腫瘍で、その定義や診断基準はさまざまに分かれるらしいんだけど、保険業界的にはキッチリと白黒が分かれるんだって。
すなわち、「悪性」なら(卵巣がんなら)掛けていた保険がおりるんだけど(私の場合、その額、ウン百万円!)、「境界悪性」だと入院保険の数万円だけだという。
「医学界で『境界悪性』は、『良性』や『悪性』と同じく、がんの教科書に載っています」と担当医はおっしゃったけれど、保険業界ではがんと認めていないわけ。
まったく、貧すれば鈍するというのかしら。大金が転がり込んでくるかもと妄想に取りつかれた私は入院当初、「できれば後々面倒にならない程度にがんになって……」なんて、図々しく不謹慎なことを思っていたの。
だけど、それも手術までのこと。担当医の底抜けの笑顔に触れたら、もう保険金なんかどうでもよくなったし、それに、体に痛いところがあると、お金のことは思い浮かびもしない。ついでに言えば、世の中のことも、個人的な悩みの数々もどうでもよくなるのよね。きっとこれは私だけじゃなくてみんなそうだと思う。
卵巣の場合、「境界悪性」といってもそれは条件つきの診断なんだという。手術中に病巣を切り取って「迅速病理検査」にかけ、その結果、がん細胞が見つかれば、リンパを切り取るなどの手術をするかどうかを決めるのだという。
私の場合、手術の段階では「がん細胞はなし。かといって良性でもなく境界悪性」と診断されたのだけど、正式な病名がつくのは約3週間かけて精密な病理検査をした結果だと言われた。
そして、体の痛みが軽くなった術後5日目に、担当医から手術で取り出した卵巣の写真を見せられた。
「卵巣の中は血液まじりの粘液なんですけど、手術の最中に卵巣の壁が破れたので、きれいに洗ったのですが、もしこの中にがん細胞が混じっていたら、最悪、再手術になる可能性もあります」
手術ですっかり“シャバっ気”が抜けて、「小さながん細胞で大きな保険金」などと考えたことすら忘れていた私は再び身震い。「最悪」も「可能性」も聞きたくない。正式な結果が出るまでの3週間は、手術のことを思い出すまいと思っていても、どこかに不安がつきまとった。