日本の交通事故での死者数は、年々減っている。だが、交通事故に占める自転車事故の割合は、年を追うごとに少しずつ増えてきた。自転車活用推進研究会理事長の小林成基さんが言う。
「交通事故での死者がもっとも多かったのは1970年の1万6765人でした。一方、昨年は2636人。しかし、1970年はそのうち自転車での事故死が11.6%だったのに対し、昨年は13.7%。件数は減っていても、割合は増えているのです」
この背景には、コロナ禍での自粛生活の影響もある。満員電車を避けるために自転車通勤を始めた人が増えたり、自転車を利用したフードデリバリーサービスが浸透したりしたことで、自転車利用者の数が増えたのだ。自転車ツーキニストの疋田智さんが指摘する。
「新たに自転車に乗り始めた人たちは、そもそも自転車での交通ルールをよく知らないことも多い。自転車に対して車や歩行者がヒヤッとするような場面を、何度も目にするようになりました」
こうした背景もあり、警視庁は今年10月31日より自転車の取り締まりを強化。これまでは警告で済まされることが多かった悪質な違反にも、積極的に「赤切符」を切る方針を打ち出した。
そもそも、自転車の交通違反の取り締まりは「自転車指導警告カード」か「違反切符」(赤切符)の2種類。前者は黄色い紙に違反の内容が記載され注意を促すもの。一方、赤切符は刑事処分対象になる。車の場合は「軽い違反が青切符、重い違反は赤切符」という認識があるが、自転車には青切符はなく、悪質な違反と見なされればどんな場合も赤切符が切られる。元警察官で日本交通安全教育普及協会教育推進委員の関勝美さんが言う。
「赤切符を切られて起訴されれば、懲役や罰金刑があり、前科がつくことになる。すると、例えば、パートやアルバイトに応募する際の履歴書にも“前科○犯”などと記載しなければならなくなります。仮に不起訴処分だったとしても、赤切符を切られるときは身分確認が必要で、交番等での身分証明書の提示を命じられます。
赤切符を無視して簡易裁判所への出頭に応じないでいると逮捕状が出る可能性もあり、“たかが自転車の違反”と軽く考えていると想像以上に労力がかかり、時間も取られます」
起訴されなかったとしても、3年以内に2回赤切符を切られると、約6000円の手数料がかかる3時間の自転車運転者講習の受講が必要。もしこれを無視すると、5万円以下の罰金が科せられる。警視庁が昨年、都内の自転車に赤切符を交付し送検された数は、4315件。前年の3003件から大幅に増え、今年も9月末までで3906件を数えている。
全国の交通事故のうち、自転車事故の割合は20〜22%を推移している。そんな中、東京ではその約2倍の43.6%。
「特に交差点での自転車事故は、EU主要国平均が約41%なのに、日本は72%と非常に高い。これは日本では“車道か歩道か”“右側か左側か”など、自転車の走り方のルールがあいまいになっているのが理由の1つでしょう」(小林さん)
日本人は世界的に見ても、自転車ルールにうとい国民だといえるかもしれない。
※女性セブン2022年12月8日号