朝晩の冷え込みから冬の気配を感じられるこの頃、暖かい部屋で読書を楽しむのはいかがでしょうか? おすすめの新刊4冊を紹介します。
『ばくうどの悪夢』/澤村伊智/KADOKAWA/2035円
「ばくうど」は夢の世界に棲むバケモノ。冒頭の無差別殺人の凄惨さに震え、途中の「現実の登場人物」表で今までは夢だったんだと一息つくも、どんどん悪夢と現実の区別がつかなくなっていく。霊能者の真琴と「僕」と少女の3人は、夢の深い所に小狡く沈潜するばくうどと死闘を繰り広げる。幸福な夢も捨てて。宙づりのラストがこの比嘉姉妹シリーズ次作への興味を繋ぐ。
『栞と嘘の季節』/米澤穂信/集英社/1815円
図書委員を務める高2の「僕」こと堀川次郎。返却本の間に押し花の栞を見つけ、松倉詩門がトリカブトだと見抜く。誰が何の目的でこんな猛毒の栞を? 2人は真相を探り始める。伏線回収が最上の褒め言葉になったミステリー界の風潮に一石を投じる文芸色濃いミステリー。ミルハウザーの極上短篇「夜の姉妹団」が効果的に引用され、共振する空気感にすっかり魅了される。
『ラインマーカーズ』/穂村弘/小学館文庫/616円
まさかほむほむをご存じないとでも? オフビートな現代短歌を作る歌人です。例えばこれ。〈ハロー 夜。ハロー 静かな霜柱。ハロー カップヌードルの海老たち。〉。大御所歌人達が『新・百人一首』に採った歌で、この秀歌を含む自選ベスト版の文庫化だ。〈「なんかこれ、にんぎょくさい」と渡されたエビアン水や夜の陸橋〉。五七五七七のリズムが空間でダンスしてる楽しさ、味わって。
『バカと無知 人間、この不都合な生きもの』/橘玲/新潮新書 968円
週刊誌連載時のタイトルを副題に追いやり、大タイトルにバカと付けたのは養老先生の跡目狙いか!? 内容的には前作『言ってはいけない』の続編。「正義は最大の娯楽である」とか「自尊心は『勘違い力』」であるとか「共同体のあたたかさは排除から生まれる」とか不都合な真実だらけ。脳科学や認知科学などの知見を紹介する著者は、人間本性陳列クラブの敏腕DJのようだ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年12月8日号